ブレフロ2攻略wiki|ブレイブフロンティア2

ブレフロ2攻略wikiではブレイブフロンティア2のストーリーやユニット、高難度コンテンツなどの攻略情報をお届けしています!

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かつてグランガイアの地で神々が人間たちを滅ぼそうとした大戦があった。圧倒的な神軍の力を前に為す術もなく滅ぼさるかと思われた人類であったが、各国で最後の抵抗を繰り広げる彼らには最後の希望が存在した。
アグニ帝国の剣豪「ヴァルガス」
サーマ王国の剣士「セレナ」
ヴリクシャ公国の槍士「ランセル」
アタルヴァ共和国の戦士「エゼル」
ラ・ヴェーダ共和国の剣士「アトロ」
パリウラ帝国の騎士「マグルス」
ひとつに集まって協力して戦えば、神をも倒すことができる、そう信じさせるほどの力持った彼らだったが、人類のその期待が果たされることはついになかった。
それでも人々は、彼らを「六英雄」と呼びその存在が滅びた後も、最後の希望の象徴として、様々な伝説とともに彼らの活躍を語り継いでいった。
現在、エルガイアに伝わる六英雄の物語は史実を元に語られているが、ほんの数十年前までは、そういった伝説の域を出ない荒唐無稽なおとぎ話が多かった。民衆の作り出した架空の英雄譚、決して事実ではないが、我々の文化として継承されてきた物語。その一部を紹介しよう。
「ヴァルガスの冒険」
ある時、ヴァルガスは皇帝の命令で、竜にさらわれた姫君を救うため火噴山へと赴く。英雄は知恵と勇気によって、火炎を吐く竜を自慢の剣ダンデルガで切裂いた。以来、ダンデレガは炎の力を得たという。これが童話、ヴアルガスの冒険の概要である。当時のアグニ皇帝に娘はおらず皇族にも該当する人物は存在しない。また、彼が竜退治をしたという歴史的な証拠も無く、剣に炎を宿す技は彼が自ら編み出したものだ。しかし、多くの子供たちがこの童話を聞いて、ヴァルガスに憧れたことは間違いない。
「セレナの嫁入り」
セレナが族長となる以前、ある小国の王子が彼女を見初め求婚した。彼女はその申し出を受け入れたが、式典の最中に突然愛剣レクシータを抜き放つと、あろうことか国王を刺し貫いた。すると、王の姿は醜い魔神へと変わり息絶えた。花嫁のヴェーレを脱ぎ捨てたセレナは、目的は果たしたと言い放つと、颯爽とサーマへ帰還したという。この民話から読み取れるのは、民衆のセレナに対する期待だろう。普通の女性としての幸せを誰より望んだセレナだが、それを捨てて戦い続けることを選んだことを象徴している。
「ランセルと小さな妖精」
森の外に出て迷子になってしまった妖精をラトンセルが送り届けるまでが語られる長編の物語。子供が夜眠る前に少しづつ語られ、「続きはまた明日」締めくくられるのがお約束とされている。森に辿り着く物語の結末まで語り切られることは少なく、子供の成長と共にいつのまにか打ち切られてしまう。だが妖精を森へ送り届けて以来、ランセルは妖精たちに愛され、森へ行く度に木の実などの贈り物をされたという後日談をなぜかほとんどの子供が知っているという。
「エゼルの鬼退治」
異界から伝えられた鬼の伝承。その主人公をエゼルに置き換えたと思われる一連の物語本来の鬼退治物の伝承と異なるのは、鬼を打ち負かした後、共に酒を飲んで仲直りし、今後は悪さをしないと約束させる点にある。血なまぐさい描写になりがちな昔話の中で、悪者を改心させて友達になってしまう辺りがエゼルらしい。こうした昔話は男の子と女の子で人気のある作品に差が出るものだが、この話はどちらにも人気がある。
「アトロと魔女」
歌劇として上演された、剣聖ア卜ロに恋する魔女の悲恋の物語である。実際のアトロの女性関係は明らかになっていないが、この歌劇ではあの手この手で婚姻を迫る妖艶な魔女を冷たくあしらう潔癖な人物として描かれている。魔女は最後にアトロを狙う暗殺者の凶刃に倒れてしまうのだが、その際に見せるアト口の優しさに涙を堪えきれない観客は多い。なお、アトロ役を演じる歌手には顔の良さが求められ、いつの時代も女性から絶大な人気を集めてきた。
「人食い巨人」
題名にマグルスの名前は入っていないが、主人公である騎士の持つ槍の名前がレオムルグで共通していることから、彼を題材とした物語として知られている。各地に伝わる巨人退治の伝説が "黒い鎧の騎士"による偉業として統合された経緯を辿ったようで、語り部によってその内容は大きく異なる。中には巨人を倒した騎士は戦いに我を忘れ狂気に陥り自身も人食い巨人になってしまうという変種も見受けられる。狂気の騎士とも呼ばれたマグルスが人々から畏怖されていたことを物語る伝説と言えるだろう。

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神々による人間を滅ぼすための戦いが起こる直前まで、人々は己の利害を巡って戦争を繰り返していたと伝えられている。ここでは六大国の軍所属の英雄たちを紹介する。
アグニ帝国の剣士「ラヴァ」
サーマ王国の提督「メザ」
ヴリクシャ公国の戦士「ダグラス」
アタルヴァ共和国の将軍「エミリア」
ラ・ヴェーダ共和国の騎士「ウィル」
六英雄の陰に隠れがちだが、大戦において各国が戦い続けることができたのは、彼らの活躍があってこそだろう。
アグニ帝国では人体の強化や非人道的な訓練など、倫理から外れた極秘研究が行われていたとされる。その技術の集大成により生み出されたのが天才剣士ラヴァである。
当時のアグニには剣技でラヴァに勝てる者はいなかったというが、もしも彼女を筆頭に、強化兵士で構成された軍勢が完成していたならば、周辺国は圧倒的な戦力差の前に蹂躙されていたかもしれない。また、神々との戦い にも大きな影響を与えていただろう。
経済大国であったサーマ王国だが、海賊の横行が常であり、海軍は彼らと癒着していたとされている。そんな状況を終焉させた海賊から大提督に抜擢されたメザである。
神々の侵攻に直面した海賊たちの多くが信頼するメザの指示に従ったため、海軍の実数は膨れ上がった。悪しき風習に染まっていた海軍もまた、メザの英断によって速やかに組織改革が行われたという。その結果、海の戦いでは神軍に勝っていたとも伝えられている。
旧態依然とした軍隊しか持っていなかったはずのヴリクシャ公国が神軍の襲来に善戦できた理由の一つに、異界出身者であるダグラスの影響があるとする説がある。
緒戦の縦深防御から、中盤以降のゲリラ戦術に至るまで、それまでのヴリクシャとは異なる画期的な戦法の数々が実戦の中で編み出されていった。これらのアイデアの核となったのが、ダグラスの持つ異界の知識だったのではないかと考える学者は少なくない。
神々との大戦以前、アタルヴァ共和国の議会は大衆迎合のために対外戦争を頻発させたと いう。それらに勝つことができたのは、エミリアら優秀な将兵と最新の兵器や戦術の数々のお陰だろう。
一時は神々の軍勢と互角に渡り合った百戦練磨のアタルヴァ軍だが、陸路を寸断され、給路が痩せ細るに従ってじわじわと戦力を削られていった。エミリアら前線の将兵の優秀さが際立っていただけに、迷走した議会の略眼の無さが残念でならない。
ラ・ヴェーダ共和国は信仰を理由に諸外国の軍事干渉を繰り返していたとされる。騎士団の規模は膨れ上がり、それを統率する上級騎士たちも粒選りの精鋭が揃えられていた
特筆すべきはバリウラ出身の騎士団長ウィルだろう。グランガイア最後の騎士と言われた彼は、神殿に納められていた神々の武具をまとい戦ったという。神々も、まさかかつて自分たちが創造した武器によって迎撃されるとは思ってもみなかっただろう。

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波乱万丈な冒険譚で人々を勇気付けた、勇者アルマ。彼女の武勇は両親譲りのものだと言われている。そしてその系譜は、三世代前から受け継がれていたものだった。
勇者に憧れる一人の拳闘士ガイツ。アルマの曽祖父にあたるこの男が後に“勇者一家”と呼ばれる伝説を生み出すこととなる。
勇者となるべく己を鍛え続けたガイツは、一人娘のリーチェにも勇者としての英才教育を施しつつ、魔物を倒す旅に出る。そこで功績を挙げると、ガイツは着々と勇者としての名声を高めていった。しかしリーチェは戦闘ではなく、回復など仲間の支援に才を発揮していくのだった。
ある時、ガイツはラ・ヴェーダ出身の剣士オルティスに出会う。ガイツの名声を聞いて、戦いを挑んできたのだ。ガイツは何度もオルティスを退けたが、そのうちに、彼に勇者としての資質があることを見抜く。娘が自分の想定とは違う成長を遂げたことに若干の不満を抱いていたガイツは、オルティスを弟子と見込んで厳しく育て上げることにした。
やがてオルティスはガイツの期待通りの成長を見せる。さらに彼は娘のリーチェと恋仲になっており、ガイツは渋る態度を見せながらも内心喜んで二人の結婚を認めた。
かくして剣士という仲間を得たガイツ。しかし彼の理想はここで終わらず、一家で勇者を名乗りたいと考えるようになる。ガイツはオルティスとリーチェの間に生まれた3人の孫—レンシア、ブルム、プルスにも勇者としての教育を施した。そして、家族で悪を懲らしめながら旅を続ける一家は、やがて“勇者一家 "と呼ばれるようになるのだった。
旅の中で、一家は諸悪をもたらす恐るべき魔神の存在を知る。彼らにとって、それはかつてない試練であった。ガイツはその時初めて敵を前に躊躇したという。人々を救う勇者になるためにこれまで努力をしてきた。だが、自分の理想のために大事な家族を危険に晒してもいいのかと……
しかし勇者一家は怯まなかった。長女レンシアは両親と祖父から受け継いだ剣技で斬りかかり、双子の姉ブルムは得意の爪闘術で飛び込んでいく。臆病者だった双子の弟プルスさえも勇気を振り絞り、オルティスとリーチェは子供たちを全力で支えた。
その光景を見て、ガイツは自分の中にあった迷いを全て振り切ったという。
一度は魔神との戦いに敗れ、ブルスの脱出魔法によって散り散りとなってしまった一家。
後に彼らは人々から「何故魔神に戦いを挑んだのか」と問われるが、みな—様にこう答えたという。「自分は勇者だからだ」と。
時は流れ、ブルムはオルガと出会い、二人の間に勇者アルマが生まれる。こうしてガイツの意志は、しっかりとその血筋に受け継がれていったのだった。

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後世において「宿敵」と語られるセフィアとキクリ。しかし、史実における彼女たちの足取りを詳しく知ることは難しい。だが“善”と“悪”を強烈に象徴するこの二人の物語に惹きつけられる者は多く、断片的な情報は脚色され、多くの物語が書き上げられた。
今回は、歴史小説家リービード・メヘルの作品である『剣姫血風伝』という書物の一部をあらすじと共に紹介しよう。
ある神の命令によって八剣を扱い、グランガイアの秩序を乱す異界からの来訪者を討つ任を帯びていたセフィアは、血の匂いをまとう来訪者キクリと邂逅する。
血の海の中に、一人の少女の姿があった。少女の身体は震えていた。襲われた村の生き残りだろうか。少女の纏う美しい着物は 真新しい鮮血に染まり、足元に赤い雫を滴らせている。セフィアが近寄ると、少女は小さく鳴咽を漏らした。震える肩にそっと手を置く。すると少女はゆっくりと顔を上げた。血飛沫を浴びた少女の顔は――笑っていた。
セフィアは史実通りキクリと刃を交え、敗北を喫することになる。作者はあどけない少女が惨劇を引き起こしたことをにわかに信じられなかったセフィアの心の動揺を描き、キクリの一方的な勝利の説明を試みている。
ここから物語の視点はキクリへと移り、しばらく陰惨な描写が続く。読者が眉をひそめる頃合を狙って、来訪者である“侍”が登場、キクリの凶行を止めることになる。
侍に咎められると、キクリは笑いながら首を傾げた。侍はなおも彼女を厳しく睨みつけたままだ。キクリは血に濡れた手を胸に当てて、言った。「ウチの中の鬼がなあ、目覚めてしもうたんや…もう誰にも止められへん…もちろん、ウチ自身にも…」侍は刀の柄を握る。言葉では彼女を説得することはできないと知ったのだ。「あんたにもそのうち分かるんやろなあ…いいや…もうあんたの中にもおるんやない…?」
史実ではこの“侍”ミフネがキクリにどれだけの彫響を与えたかは分かっていないが、物語ではキクリの思考に変化をもたらすきっかけとなっている。
その後、再び物語の視点はセフィアに戻り、 神と人間の戦いが始まったことによる葛藤が描かれる。史実の通り、セフィアは神に背を向け、八剣を神軍に向ける。そこヘキクリが合流し、宿敵であった二人が共闘する場面は本書一の盛り上がりを見せる。
二人は目の前の軍勢に刃を向ける。もはや神々ですら二人の敵ではない。興を削ぐただの邪魔者である。二人は知ったのだ。今共に闘つている相手こそ、己の魂が真に欲するものを与えてくれる存在であると。
周囲の神軍を滅した二人は、遂に再戦の時を迎える。史実としては一次資料に欠けるこの戦いを、作者はその想像力を働かせ、数ページにわたる死闘として描き切ったが、どちらが勝利したのか、その結末は読者に委ねる形を取り、余韻を残して物語を締め括った。
『剣姫血風伝』はいくつも存在する創作の一つにすぎないが、現在でも多くの学者がその解釈を巡り議論を続けるほど、考察に優れた作品である。すべてを真に受けてしまうと、 史実調査に予断を交えてしまうよう恐れもあるが、歴史に興味があるのなら一読することをお勧めしたい。

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大戦期のバリウラ帝国の皇帝テオドロスには多数の皇子、皇女がいたが、皇帝は帝国の戦力を増強するため、彼らに特殊な訓練や魔術による強化を施していた。本稿ではその中でも同腹の二人、第二皇女エルザと第八皇女アリスについて記す。
大戦のため未完となっているバリウラ帝国史書のテオドロス記には、幾人かの女性が妃として迎え入れられたことが記されている。名前は不明ながら、その中に冥界の血を引くと但し書きがされた人物があり、彼女こそがエルザとアリスの母親であることが他の資料から裏付けられている。
この冥界の血を引くという記述を単なる迷信と考え無視する研究者も多いが、正史に記されている以上は奇説として退けるわけにはいかない。実際に、エルザとアリスには他の皇子、皇女には無い特別な力があった。
彼女たちが皇帝より与えられた大鎌は、太古の昔に冥界よりもたらされた二振りの魔鎌である。死者の魂を喰らい、魂を犠牲にすることで死者を甦らせることもできたという。しかし、その真の力を発揮できるのは冥界の血を引く者だけだと伝えられている。皇帝が妃として冥界の血を引く者を求めたのは、まさしくこの魔鎌の使い手を自らの手駒とするためだったのだろう。
冥界の血をより濃く受け継いだのは妹のアリスであった。皇帝はまず彼女に魔鎌を与えると、多くの命を奪わせた。皇帝の狙い通り、心の底に降り積もる罪悪感は彼女を狂気へと誘う。一個の兵器として完成されつつあるアリスだったが、死の淵を覗く憂き目に遭うことも多かったという。そのため、皇帝は予備の使い手として温存していた姉のエルザに魔鎌を与えると、妹を守るよう命じた。
バリウラの戦時詳報によるとアリスは戦闘の半ばで戦死したことになっている。しかし、その後もニ人の大鎌使いが戦場を舞ったことが多くの兵士から証言されている。魔鎌の伝説の通りにエルザがアリスを甦らせたに違いない。二人が同時に死なない限りは、敵を刈り尽くすまで止まらなかったことだろう。姉妹の本当の最期を知る者はいない。

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神々と人間の大戦時。グランガイアでは多くの戦士たちが活躍し、彼らの伝説は後世にまで語られている。その中でも特に物語の登場人物として現在でも人気を誇っているのが、以下の者たちである。
アグニ帝国で活躍した獣人「ゼルガル」
サーマ王国の竜騎士「ゼフュー」
ヴリクシャ公国の弓将「ラリオ」
アタルヴァ共和国の軍師「ヴァイス」
ラ・ヴェーダ共和国に現れた女性「ルナ」
バリウラ帝国に現れた剣士「ミフネ」
多くの創作物で題材として選ばれることの多い彼らについて、どのように描かれているのか紹介する。
アグニ皇帝に尽くし続けた獣人ゼルガル。
彼を題材とする物語は、多くの場合皇帝が悪役として描かれている。自身の出自を知らずに皇帝に仕えてきた彼が、ある時自分の過去に関わる衝撃の事実を知り、苦悩しながら己の生きる道を見つけ出すという流れである。その後皇帝と和解するか離反するかは、それぞれの物語によって異なる。
サーマ王国に忠誠を誓った竜騎士ゼフユー。
彼を題材とする物語は、幾度もの挫折を重ね騎士として成長していく姿を描いており、非常に親しみやすいため男女問わず幅広い世代から支持を得ている。彼の祖国に対する熱い想いは人々の胸を打った。愛竜との絆に焦点を当てた創作も存在する。
ヴリクシャ王女を守り続けた弓将ラリオ。
彼とヴリクシャの王女ファリスを題材とする物語は女性からの人気が高い。二人の恋模様が描かれることが多いが、ラリオの支えによりわがままな王女ファリスが成長していく様は女性だけでなく多くの人々を感動させる。
アタルヴァの天才軍師ヴァイス。
彼を題材とする物語は、彼の才能に嫉妬した国の重役たちが吹っ掛ける無理難題を、天才的なひらめきで次々と解決していくという痛快な喜劇として描かれることが多い。ヴァイスの気難しく堅物な性格が味を出しており、長年にわたって人々に愛されている。
ラ・ヴェーダに現れた謎の女性ルナ。
非常に口が悪いことで知られる彼女の強烈な個性は創作に生かしやすく、題材として好まれている。その多くは別の登場人物の視点から破天荒な彼女の姿を描くというもので、謎が多くも魅力に溢れる女性となっている。
バリウラに突如現れた剣士ミフネ。
彼を題材とする物語は、旅を続けるミフネが行く先々で様々な問題を解決する冒険譚として描かれている。寡黙でありながら人々を救うために戦う彼の姿は人々に憧れを抱かせ、彼の扱う“カタナ”にも人気が集まった。

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遥か古より語られし、人間の叡智を超えた存在。一部の地域でそれらは神の化身とされ、崇められていた。
火山から誕生する霊鳥「フェニックス」
海竜の始祖とされる巨竜「マルナパリス」
樹木の祖とされる巨大樹「エルトリオン」
絶大な破壊力を持つ魔獣「ロドマギア」
最強と言われる覇竜「ラメルダリア」
“死”を司る神「ログ・ダーナ」
人々はどのようにこれらの存在を認識していたのか。ここでは各地の信仰について紹介する。
グランガイアの火山地帯では、再生と復活を司る神の化身として炎の霊鳥フェニックスが崇められていた。灼熱の火山で修行し己を高めることで、フェニックスから不死の力を授かれると信じられていたという。
サーマの海岸地域では、海に宿る神が姿を現したものとして、巨大な海竜マルナパリスが信仰されていた。船乗りたちは海に出る前にマルナパリスに捧げる儀式を行い、船旅の無事を祈っていたという。
ヴリクシャ地方の一部の集落では、妖精の森を作り出した世界樹エルトリオンの存在が信じられていた。信者たちは世界のどこかにあるというエルトリオンを見つけ出しその言葉を理解することを最終目標としていたという。
アタルヴァの砂漠地帯には、岩山を砂塵に変えて砂漠を生み出したという魔獣ロドマギアの伝説が残っている。ある民族はロドマギアの怒りに触れれば砂漠がさらに広がり、いずれ世界を飲み込むと信じていたという。
ラ・ヴェーダの一部の地域に、覇竜ラメルダリアを信仰する教団が存在したと言われている。かつて覇竜に刃を向けた人間は生まれながらに罪を背負っているとする考えを持っており、王国では異端視されていたという。
バリウラの山岳地帯では、“死”を司る神ログ・ダーナが様々な場所に記られていたという。この地域では原因不明の疫病が流行した時期があり、死を恐れず、受け入れようとしていたのではないかと考えられている。

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歌劇の演目、呪われし炎鎧のあらすじ。
魔導を極めんとしたラスハイルは度重なる危険な実験を理由にアタルヴァ共和国を追放される。しかし、それは天啓。放浪の旅の中、異界の技術の結晶である人型機械人形リリスと邂逅する。
敵を追い、異界からやってきたレーゼとリリスにとっても、ラスハイルとの出会いは幸運であった。異界ベクタスと異なり、グランガイアではリリスの動力源である電力を調達することが難しい。しかし、ラスハイルなら、魔術によってそれを生み出すことができた。
ラスハイルとレーゼの利害は一致し、三者は共に旅立つ。そこに、もう一人の道連れが現れる。トルティア武芸院の出身で武者修行中のディルマ。彼はリリスが機械であることを理解せず、恋心を抱く。
炎鎧の鬼人ヴィシュラが惨劇を引き起こす一幕。そこにレーゼたちが駆けつけ、戦いへ。しかし、彼女たちは鬼人に敗れてしまう。鬼人がレーゼに最後の一撃を見舞わんとするその時、黒き甲胃の騎士ロギオンが現れる。鬼人はその姿を認めると動きを止める。
ロギオンの回想。バリウラ最高の騎士になることを誓い合う親友とロギオン。彼は闇術師に力を求め、人ならざる力を得る。また、彼の知らぬことだが、親友は呪われし炎鎧を得て鬼人へと姿を変える。
場面は戻り、鬼人はロギオンとの戦いを避けいずこかへ去る。ロギオンは鬼人を追って退場。レーゼたちが身を起こす。ここでレーゼの回想。炎鎧を造り上げたレーゼだが、鎧は暴走し兄を殺害し異界へと逃走。レーゼはリリスを伴い鎧を追って消える。
場面は戻り、力不足を感じたレーゼはラスハイルの勧めを受けてヴリクシャへ向かう。そこでグランガイアの魔術的手法を学ぶと、自身とリリスの武装の強化に努める。ここで、ディルマとリリスのアリアが入る。
再び鬼人ヴィシユラが惨劇を起こす一幕。ロギオンが登場し戦闘の描写。ロギオンは相手が行方不明の親友であることに気付く。そこへ駆けつけたレーゼ一行は遂に炎鎧を打ち破る。ロギオンの働突が歌われ終幕。
なお、この物語は史実を元にしているが、物語の都合上改変されている部分もある。

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現在では特異たる俊英と呼ばれる大戦期の英雄たちについて調査したところ、興味深い文献が見つかった。ここでは彼らについて、当時の人々がどのような印象を抱いていたのかを知ることができる貴重な資料である。
アグニ帝国の元帥「アグニ」
サーマ王国の竜騎士「セイリオス」
ヴリクシャ公国の王女「リディス」
アタルヴァ共和国の騎士「ファルマ」
リゼリア地方で活躍した銃士「ハイト」
バリウラ帝国の闇術師「シダ」
人々がエルガイアへ逃れて間もない頃、ある歴史家が各国の生き残りから話を聞いてまとめた書物『六大国奮戦記』が、ランドールの古い民家から発見された。そこには人間と神々との間で起こった大戦の中で、六大国と呼ばれる国々が行った神軍への反撃の様子が描かれていた。長い間行方知れずとなっていたその書物の概要を紹介したい。
アグニ出身者の証言。
神軍により次々と城が陥落していく中、決して破られることなく抵抗を続けた拠点があった。大元帥アグニが守るその拠点こそが帝国最後の防波堤であったのだが、人々の希望である大元帥その人が皇帝の逃亡の前後に失踪したという噂が帝国全土を駆け巡る。英雄の死に続いて起こったこの事件に、人々は絶望したという。しかし、そこへ新たな噂が流布された。失踪したはずの大元帥が皇帝の武具をまとい、精鋭の騎士たちを連れて再び人々の前に姿を現したというものだ。実際に、誰かが神軍の進行を食い止めたことは事実ようで、その戦いがあればこそ、人々がエルガイアへ逃れる隙ができたのではないかと言われている。なお、ある陰謀論者はこう言っていた。「大元帥は常に鉄仮面で素顔を隠していた。噂の人物は影武者だったのではないだろうか」と。真相を知ることはできないが、大元帥失踪の裏側に、何かがあったことは確かだろう。
サーマ出身者の証言。
大提督メザの活躍により海での戦いを優勢に進めていたサーマ王国であったが、陸での戦いは苦戦に次ぐ苦戦を強いられ、日を経る毎に戦力を削られていったという。そんな中で局地的な勝利を繰り返す部隊があった。騎士セイリオスの率いる遊撃部隊がそれである。孤高の氷帝と誰われた彼は、常に単独で行動していたと伝えられているが、戦いの末期にはその考えを改め、配下の騎士たちと共に獅子奮迅の活躍を見せたという。彼の最後の戦いは、神軍の総攻撃に対して行われた絶望的な決戦であったという。王子レセウスの指揮するサーマ軍本体は包囲を避けて広く布陣。セイリオスの部隊が中央突破を敢行、敵前衛を突き抜け本陣へ至った。彼の消息はそこで途絶えているが、統率を失った神軍は数の少ないサーマ軍に包囲される格好となり一時撤退に追い込まれたという。その甲斐あってサーマ軍は全滅を免れ、体勢を立て直すことができたと伝えられている。
ヴリクシャ出身者の証言。
兵数に優れ、兵糧の備蓄も十分であったヴリクシャ公国軍は、層の厚い縦深防御により神軍の出血を強いたとされる。しかし、予想に反して神軍の勢いは衰えず、公国軍の将兵もまた次々と倒れていった。そんな状況を憂いた第一王女リディスが周囲の反対を押し切って攻勢に打って出るも、結果は惨憺たるものであり、王女が前線から離脱するために更に多くの血が流れてしまったという。だが、王女はその経験を元に戦略の変更を提案。一部の部隊を森林でのゲリラ戦に移行させ、自身の率いる精鋭部隊を以て遊撃と撹乱に努めたという。この戦略は確実に功を奏したはずだったが、神軍の侵攻は止まらなかった。一方、人間を救おうとする神があり、啓示を受けた若者たちが人々を新天地へ導くという噂が軍内に広まると、噂を信じた一部の軍人たちは撤退を進言したという。しかし、王女リディスは前線に踏み留まり、命を投げうって神軍を抑え、彼らが逃げるための時を稼いだと伝えられている。
アタルヴァ出身者の証言。
最新の技術を用いた武装を取り揃える百戦錬磨の共和国軍は、当初神軍を迎え撃つに十分な戦力を保有していると目されていた。しかし、神々の力は恐るべきものであり、人々の楽観は次々と押し寄せる悲報に押し清されていった。前線の将兵たちは空の騎士として名高いファルマを始めとして、英雄的な活躍を見せたが、首脳部の迷走により戦略的失敗を繰り返してしまったのだ。一部の軍人が、この状況を覆すため、作戦権を盾に暴走とも言える独自戦闘を開始したのもある意味では仕方が無かったとも言える。法的な問題はあるものの、自由に動けるようになった共和国軍は反攻に転じ、その間に民衆を神軍の勢力圏外へ逃がす方針を固めたという。その作戦の要となったのが前述のファルマである。反攻に転じる隙を突いて後方に迫り来る神軍を迎え撃った彼は、空賊グラッフルと共闘し名高い神々を数多討ち取ったとされる。ファルマとグラッフルはその後エルガイアに落ち延びることに成功しているため、彼らのことを知る者は多い。
リゼリア出身者の証言。
ラ・ヴェーダの聖騎士たちは神軍の侵攻が始まった当初は、そこに合流して神敵を懲らす栄誉を得ようと考えていたという。神々の目的が全人類の滅亡にあることを知らなかった彼らだが、民衆に被害が出たことでようやく抵抗のための戦いを開始した。こうした初動の遅れにより、多くの村や町が蹂躙されることになったが、騎士団に属さぬ戦士たちの抵抗により救われた命も少なくない。異界の出身者とされる銃使いハイトも初期から神軍に抵抗した戦士の一人である。騎士団が神軍との戦闘を開始した後も、彼は逃げ遅れた人々を救うため敵勢力圏内を駆け回ったと伝えられている。彼が救った者たちの中には、監獄に捕らえられた犯罪者たちの姿があったという。檻の中で一方的に虐殺される運命にあった彼らはハイトを慕い、武器を取って彼に付き従ったと言われている。
バリウラ出身者の証言。
神軍の最初の標的となったバリウラ帝国は混乱に包まれていた。その生き残りから得られる証言は人々をエルガイアへと導いた英雄たちの話ばかりで、戦時下の状況についてまとまった証言を得ることは難しかった。かの国がどのような対抗措置を行ったかを知るためには、現地での発掘調査が不可欠だろう。あるバリウラ出身者は、闇術師シダの呪われた研究こそが、神々をして人類を滅ぼそうと決意するに至らしめた元凶であると考えていたという。果たして「呪われた研究」がどのようなものだったのか、今の我々には漠然と想像するしかないと、著者は記している。

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光ある所に闇はあり。法のある所には必ず悪がある。しかし、悪成す賊徒どもが必ずしも真に邪悪なる存在であったかと問われれば、否と答えよう。盗賊山賊の輩とて、機会さえあれば善を成すこともできたのだ。

―ロベル・アダン―
アグニ地方の盗賊「レナード」
サーマ地方の海賊「ヴェリカ」
ヴリクシャ地方の山賊「ザザン」
アタルヴァ地方の空賊「グラッフル」
彼らにまつわる言葉を紹介する。
正義の味方のつもりなんかねえよ!
目の前でおっ死なれたら夢見が悪いだけさ。
あとは神様でございとふんぞり返った連中に一泡吹かせられればそれで満足さ。
―盗賊レナード―
神だろうがなんだろうが、オイラの船の上では、オイラの言葉が絶対だ。
オイラの船の上で女子供を殺させはしねえ。
ヨーホー!碇を上げろ!帆を開け!
―海賊ヴェリカ―
あの人は口では散々っぱら残酷なことを言ってたけどよ、実際に無抵抗な村人を殺したことなんてねぇんだよ。
カミサマとやらの方がよっぽどひでぇや。
―山賊ザザンの手下―
我が友は仁義を重んじ慈悲を知る勇者だ。
ただ自由に憧れ自由と共にあったがために、法とは相容れなかっただけのこと。
我が友を悪と言うならどこに善人がいよう。
―空賊グラッフルの親友―
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パルミナの四戦士とは、言わずと知れた英雄たちである。六英雄に次いで有名な彼らの研究は盛んに行われているが、魔統神を打倒して以降のことはあまり知られていない。
アーリンド神学校で発見された、ローランドから教え子に宛てて書かれた手紙がランドール図書館に収蔵されている。魔統神との戦いの後、傷を負ったローランドが療養先でしたためたものらしい。
手紙には神学校で教鞭をとる彼の元に、身分を隠した王女エデアが訪ねてきたことから始まり、彼らの冒険の詳細が書き連ねられていた。素行が悪く神殿を追い出された神官ディンのこと。エデアを慕い忠実に尽くそうとするロクスのこと。民を想い案じる王女エデアのこと。再び剣をとることになった自身のこと。様々な想いが美しい字で綴られている。
魔統神カルデスとの最初の戦い。エデアが自身と共に神を封じたこと。三人がエデアを救うために再びその地を訪れたこと。この辺りは特に念入りに書かれている。おそらく、エデアの功績を後世に伝えたかったのだろう。
この手紙から推測できること。それはエデアの生存である。ローランドの筆致は希望を失っておらず、彼女が無事であることを微塵も疑っている様子がない。旅の空にあるロクスとディンのことを案じる記述には、自分が動けないことへの嘆きが見て取れる。
なお、この手紙を書いて以降のローランドの足跡は分かっていない。彼らの事績はかの大戦初期のこと。よって、その痕跡の多くは戦火により失われてしまっている。歴史の真実に光を当てるためにも、新たな史料が発掘されることを強く願う。

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人間と神々の大戦が起こる十数年前のこと。メルキオと呼ばれる存在がリゼリア地方に現れ、破壊と混乱を巻き起こした。十翼の破壊者として物語にもなった事件である。
リゼリア地方の発掘中に一冊の書物が発見された。女性の日記と思われるその書物は損傷が激しく、解読にはかなりの時間が掛かったが、驚くべきことにそれは前述の物語において十翼の破壊者を打倒したミセル本人の日記であった。
読める状態に修復されたページは多くない。だが、重要な事件が起こった日の記述が奇跡的に解読できている。
変な奴に会った。鉄でできたカニ。メルキオとかいうやつを倒しに来たんだって。私も手伝ってやることにした。お父様や貴族たちが何もしようとしないなら、私が世界を救ってやるんだから。
DUELと出会った日の記述である。DUELからメルキオの話を聞いたミセルが、旅に出る決意をした様子が伺える。
“神の子”とか言われてる顔色の悪い子に会った。どうしてあんな村人たちのために尽くすのかしら。気に入らないから、私が連れ出してやったわ。
これはティアラのことで間違いないだろう。人々から忌避、あるいは崇拝され、遠ざけられていた彼女と、ミセルは友達になった。
鎧を着こんだ変な奴に会った。私がメルキオを倒すつもりだって言ったら、自分が1 人で倒しに行くって。ふざけんじゃないわよ。ゼルバーンだって言うけど、本当に本物かしら?
ゼルバーンとはヴェーダ流剣術の始祖の名前にして、代々受け継がれる称号でもある。歴代最強であったとも言われる彼は、後にミセルと共にメルキオと戦うこととなる。
変な奴がついてきた。性格の捻じ曲がった嫌な男。メルキオと戦ったことがあるとか偉そうなこと言ってるけど、キモいから絶対一緒に行きたくないわ。
ロディンとの邂逅の日の記述である。ミセルのロディンに対する評価は常に辛辣で、気持ち悪い、暗い、趣味が悪いなど様々な悪口が書かれている。
作戦を練った。メルキオを倒す作戦。ティアラが不安そうにしてるから、ちょっと威勢よく成功するはずって言っちゃったけど多分ゼルバーンは難しいって分かってる。いつも偉そうなロディンが珍しく素直だったけど、何か悪いものでも食べたのかしら。
記録によると、翌日ミセルたちはメルキオと戦い、奇跡的に勝利を収めたはずだ。その後ミセルは犠牲になったDUELを修復するため旅立つことになるが、この日記帳はここで途切れている。
我々研究者が知りたいことは、この後の出来事である。ミセルがどのようにしてベクタスへ渡ったのか。ベクタスで何があったのか。今後の研究はグランガイアではなく、ベクタスで行うべきだろう。

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あまり知られていないことだが、神々との大戦当時、一部の人ならざる者たちもまた、軍と戦ったという記録が残されている。
彼らの戦いを目の当たりにした者から口承で伝えられた物語を記したゴルゴラスの書、その災厄の焔獣の章より以下に抜粋する。
遠い昔、まだ人間が偉大なる大地で暮らしていた頃の話。
神々は天使に、封印された災いの獣を滅ぼすよう命じた。天使が獣を討ちに行くと、獣は天使に自由の素晴らしさを語った。感銘を受けた天使は獣の戒めを解くと、自由を求めて飛び立って行った。
邪悪なる魔物は半人半魔の少女に、白き賢者を討つよう命じた。少女が賢者を討ちに行くと、賢者は悩みを抱く少女に良心に従うよう説いた。少女は人でも魔物でもない自分を誇りに思うようになった。
神々は人間を滅ぼすことに決め、神の軍勢を遣わした。自由を求める天使は、神々を困らせるため、氷の要塞を奪った。災いの獣を封じるために作られたはずの要塞は、神々に仇成す存在となった。
白き賢者は、混乱をもたらす神軍を大地に仇成すものと見做してその牙を剥いた。半人半魔の少女はそれに倣い、人々を守るために剣を取った。彼女を守るために造られた岩の人形もそれに従った。
災いの獣の炎が大地を焼いた。しかし、人々の住む街は氷の要塞によって守られた。神々の雷が人々を襲った。しかし、岩の人形が立ち塞がり、人々は守られた。人々には誰が敵なのか分からなかった。
自由の天使と災いの獣が神々の軍勢に挑み掛かると、魔人の少女と白き賢者がそれに続いた。神々の軍勢が反撃を試みると、氷の要塞と岩の人形がそれを押し返した。人々はそれをただ呆然と眺めることしかできなかった。
神々の憤怒が自由の天使を襲った。天使は翼を失い地に落ちた。神々の裁きが魔人の少女を襲った。岩の人形が少女を庇い倒れた。神々の英知が氷の要塞を襲った。要塞は力を失い動かなくなった。人々は逃げ出した。

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神々と人間の大戦末期。人々はある者たちの導きにより、グランガイアから新天地エルガイアへ脱出したと伝えられている。迫りくる神軍の追っ手。疲弊する民衆。犠牲となった戦士たち……いくつもの苦難の末、我々の祖先はこのエルガイアへとたどり着いたのだ。
その旅の厳しさは、エルガイアの古い書物庫で発見された、『エルガイアへの道』という日記がありありと示している。この日記は、実際にグランガイアからエルガイアへと逃れた一人の少女が書き記したものだという。
ラ・ヴェーダ共和国辺境の村の出身だった少女は、村にやってきた3人の若者―リード・ アーネル・ルカナに出会う。彼らは近いうちに神々が人間を滅ぼすために侵攻してくることや、エルガイアという新天地へ逃れれば助かることを説明し、必死に村人たちを説得していたという。やがて少女の家族も含め、村人は彼らと共にエルガイアを目指す旅に同行することとなる。
まだ幼かった少女をいつも気に掛けていたのは魔導師のルカナで、日記からは少女がルカナに懐いていた様子が伺える。少女だけでなく、ルカナは常に人々の様子を気遣い、支えていたという。
一団は度々侵攻してくる神軍に覇われた。その時の少女の恐怖は並々ならぬものであったが、そんな少女をリードが励まし、安心させてくれた。リードはいつも先陣を切り、民衆を守るために全力で戦っていたという。
旅を続けるうちに一団に同行する人々は増えていき、その中には屈強な戦士たちもいた。
武術の達人であったラインは当初子供たちに怖がられていたが、長旅で疲れ切った少女をよくおんぶしてくれたらしい。ラインの背中の上だけでは、少女もぐっすり眠れたと書かれている。いつしか共に旅をする子供たちもラインの周りに集まるようになっていた。
少女の日記には、一団を何度も救った「鎧の人」という人物が度々登場するが、おそらくそれはナグネスのことであろう。鎧の人はたまにしか現れないが、出会うと必ず子供たちに何かしら教えを説いたという。しかし少女にその意味は理解できなかったようだ。子供たちはその鎧の中を見たがったが、ついに正体を見せることはなかったらしい。
険しさを増す旅の中で、人々は些細なことで言い争いを繰り返すようになっていた。そんな時、熟考の未に誰もが納得できる解決策を導き出したのが、アーネルだった。彼の提案によって両親にも笑顔が戻り、少女はほっとしたという。アーネルも最初は頼りなかったようだが、ある時期からとても自信に満ち溢れているように見えた、と少女は語る。
バリウラの騎士エルは、民衆に対し容赦なく規律や規則に従うことを強いたり、リードとも激しく対立していたため、少女は当初彼のことを怖がっていた。しかし彼は民を守ることを誰よりも考えており、自分を心配してくれた少女に対して「心配させてすまない」と微笑んだという。
その後、実際にはエルガイアへ辿り着くまでに多くの者が犠牲となったが、彼らがどんな思いで人々を救おうとしたのか、この日記からは様々なことが読み取れるだろう。

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神々と人間の大戦期。人々を支え、国のために自身の力を捧げた女性たちがいた。
アグニ帝国の魔法使い「リーザ」
サーマ王国の僧侶「メリス」
ヴリクシャ公国の風水師「クラリス」
アタルヴァ共和国の踊0子「メイ」
ラ・ヴ工一タ共和国の白魔法使い「ミミル」
バリウラ帝国の陰陽師「リリー」
彼女たちは素晴らしい活躍を遂げたが、実はその後、悲惨な運命を辿ったのではないかとする説があることをご存知だろうか。今回はそんな興味深い俗説を簡潔に紹介する。
「リーザに届いた魔術書の謎」
彼女は自宅に届けられた謎の古い魔導書を開いた途端、病的に魔術の習得にのめり込んでいった。それから三年後、一流の炎魔術師となった彼女の前に国の士官が現れ、彼女を連れ去ってしまったという。
「メリスの犯した大罪」
神々との大戦中、彼女は献身的に民衆を救い続けた。だがそれが神に仕える僧侶にとって第一級の背信行為となることを彼女は深く考えておらず、ついに彼女は神の怒りに触れ、裁きを受けてしまうのだった。
「歴史に葬られたクラリスの真実」
時を操る彼女の力は世界の真理を覆すほどのものであり、権力者たちはこぞって彼女の力を独占しようとした。ヴリクシャ公国での激戦後、自分の運命を察した彼女は自らその命を絶ったという。
「人気絶頂の踊り子メイの末路」
魔舞踊の使い手であつた彼女は、自分なら神々すらも魅了できると考えた。そして彼女は突如姿を消し、単身神軍に乗り込む。だが次に彼女が姿を見せた時、彼女は神軍の大軍勢の中でまるで抜け殻のように美しい舞を踊り続けていたという。
「断たれたミミルの願い」
彼女の驚異的な回復魔法の評判は各地に広まり、多くの国が彼女の力を求めた。それに応え彼女も力を振るい続けたが、ラ・ヴェーダ共和国の一部の重役がそれをよしとせず、自国に監禁されてしまったという。
「封印されたリリーの研究室」
彼女は帝国の管理の下自身の術の研究を続けていたが、次第に自分が利用されているだけであることに気付き始める。彼女は術を暴発させて脱走を図ったが、ついに逃げ切ることはできなかった。
もちろんこれらは後世の人間が娯楽のために作った虚構の物語であるが、なぜこのような説が誕生したのかを今一度深く考えてみると歴史に隠された闇が見えてくるだろう。

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辺境の異界、セルタビア。
今より遥か昔――かつて一つの王国だったその世界は、戦乱により荒れ果てていた。各地で繰り返される争い。人々の心は憎しみの連鎖に囚われていた。
しかし、若くして即位した賢王アリアトスの善政により、長らく混沌の時代にあったセルタビアに平穏が訪れる。人々の心はようやく安寧を取り戻したかに見えた。
だが、世界から憎しみの連鎖が消えることはなかった。
生まれながらに負の絆を背負い、憎しみから逃れるために世界の破壊を望む、闇の王バルサラム。彼は古来よりセルタビアの地に存在する“古の悪魔”を喚び出し、その力で動物たちを魔獣に変えてしまう。
魔獣となった動物たちは人々を襲い、セルタビアは再び混乱の渦に陥れられた。
アリアトスは、相棒である光の獅子バルトと共に、4人の若者を集めてバルサラムの討伐に挑む。
炎聖リアン。
炎狼ロティを相棒に、各地を旅する剣士。
水聖レイエル。
水竜ルドラを相棒とするセルタビアの騎士。
樹聖工リシア。
樹霊アルキラと共に癒しを与える巫女。
雷聖グルーク。
雷鷲カダスを相棒とする領主の息子。
パートナーである動物や精霊と強い粋で結ばれる彼らは、絆の力で見事バルサラムを打ち倒す。だが、闇の王の心身は既に古の悪魔に取り込まれてしまっていた。復活を果たし、抑えきれない程の力を発揮するバルサラム。
“古の悪魔”を倒すためには、負の絆の力に唯一対抗しうる、正の絆の力を極限まで解放する方法しか残されていなかった。だがそれは、全員の命を犠牲にするものだった。
それでも彼らは、セルタビアの人々を守るため、自身の命を捧げることを決意する。
全てを懸けた力はついに1古の悪魔1 を封印する。だが、最後にそこに残ったのは、アリアトスただ一人だった。エリシアが残した力によって彼だけが守られたのだ。それは4人の「この世界の未来のために」という想いだったのかもしれない。
アリアトスは、自らが生き残った意味を問うように、セルタビアの復興に尽力した。彼の功績によりセルタビアはその後しばらくは大きな戦乱を生じることがなかったという。
アリアトスはセルタビアを救った四人の若者を「四聖」と呼び讃え、人々はその英雄たちの伝説を語り継いでいった。

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エルガイア連邦が成立してしばらく経ったある時期、ランドール皇国との国境地帯に位置する遺跡において局地的な戦闘が行われた。全面戦争に発展しかけたこの戦いは、両国の将軍の醜間事件として幕を閉じたが、今なお不明な点が多く残されている。
当時、新間で伝えられたところによると、国境を挟んで対峙する連邦皇国両軍は、長く続く小競り合いに疲れ、その士気は下がっていたという。両国共に領土拡張の意志は薄く、この新聞では浪費されていく軍事費が無駄であることを説き、和平を結ぶべきではないかと締めくくっている。
また、世俗的な雑誌には、皇国将軍の戦費横領について、ある美女が裏で糸を引いていたと誇張を交えて書き立てられていた。曰く、将軍は美女に貢ぐため軍の資金に手をつけた上に、それが不足したことで更なる戦費を引き出そうと無益な作戦を強行したという。その背景には連邦の将軍も件の美女に入れあげており、皇国将軍よりも多くの額を貢いでいたことによる焦りがあったとされる。
従軍経験のある作家の回顧録によると、戦場となった遺跡からは亡霊が湧き出し、冥界から魔神が現れたという。あまりの事態に軍は混乱の極みに達し、将軍が魔神に襲撃されたことを契機に撤退命令が下されたと記されている。面白いことに作家は、亡霊や魔神が暴れたにも関わらず両軍の死傷者は極めて少なく、まるで誰かが争いを止めようと画策したかのようだったと述懐している。
遺跡近くの村に残された伝承によれば、遺跡から這い出した亡霊は村人の良く知る故人の姿をしていたとされ、旅の神官に彼らの平穏を祈るよう願ったという。程なくして亡霊の出現は途絶え、村には徳の高い神官を称える碑石が建立された。
ある陰謀論者は、この戦闘に連邦の秘密研究所で開発された人造人間が試験投入されたとして反戦を主張する印刷物を配布した他、戦場となった遺跡には異界の研究を行う邪悪な魔女が住んでおり、魔神云々の噂はすべて魔女の悪辣な幻術によるものだと発表した。
荒唐無稽なものも含めて有象無象の流言飛語が飛び交い、当時の騒ぎは大変なものだったという。特に、将軍の醜聞事件は組織の構造そのものが問題視され、責任を連邦当局及び皇国中枢に求める声が大きくなった。事態を受け両国は様々な改革を余儀なくされたが、それ故に自然と国境での争いは減少し、現在のような小康状態へと落ち着いていった。

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神々と人間の大戦が起こるより遥か以前。古代グランガイア北西部に広がる「迷いの森」には、エルフ族と獣人族という2つの種族が棲んでいた。
だが、ある組織の思惑により、2つの種族は引き裂かれることとなる。
彼らはなぜ悲劇的な結末を迎えてしまったのか。そこには、両種族が辿ってきた因縁の歴史が関係していた。
獣人族の祖先は、元々イシュグリアに生息していたとされる。かの地では種族同士による激しい覇権争いが続いており、争いに負けた獣人族は居場所を奪われてしまう。その時偶然開いたゲートを通りグランガイアに流れ着いたと言われている。
獣人族は迷いの森に棲みつくようになり、遥か昔からそこに暮らしていたエルフ族とは長らく共存していた。
しかし、エルフ族の王レーニアスの治世になると、工ルフ族は一転して獣人族の迫害を始める。獣人族は食糧や毛皮の確保のために森の動物たちを狩っていたのだが、それを引き合いに出したレーニアスは獣人族が神聖な森を荒らすとして弾圧を始めたのだ。
それに対し獣人族は最後まで抵抗を続けた。ある屈強な戦士は、妹を失いながらも自分や妹の子供たちを守り続けたという。
だが、獣人族はその数を大きく減らされ、森の一角の限られた領域にまで追い込まれてしまう。領域の外へ出ることは禁じられ、両種族の関係は完全に断絶することとなった。これにより獣人族は深い傷を負い、エルフ族に対する憎しみは、戦士の妹の孫――ヴォーグの世代にまで受け継がれれていったのだった。
そして、数十年後。
エルフの王女レフィーナは、幼馴染のグレイフが森から追放された一件を機に、民衆の意識を変えるため立ち上がる。エルフ族には、獣人族弾圧を契機に他を差別する風潮が根付いていたのだ。王族周辺では特にそのような思想が根強く、レフィーナの側近エルシスも凝り固まった考えの持ち主であった。女王即位後、レフィーナは獣人族の抑圧を緩和する策を打ち出すが、彼女の方針はなかなか受け入れられずにいた。
一方、獣人族の長老となった戦士は、二度と悲劇を繰り返さぬよう、エルフ族との和解を目指すようになっていた。そのため、自身の 孫であるキリカがエルフ族へ憎しみを抱かないよう、最後の希望を託して育ててきた。
憎しみ合ってきた2つの種族は、お互いに分かり合える道を模索していた。だが両者の願いは、異種族の排除を目論む人間ナヴァールによって儚く打ち砕かれてしまう。
もしも倣慢な人間が現れなければ、彼らが和解できる未来は近かったのかもしれない。

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グランガイアの歴史において、華々しい活躍が語られてきた英雄たち。しかしその陰に隠 れ、これまであまり名が知られていなかった 者たちがいる。
アタルヴァ共和国の天才魔術師「キルファ」
サーマ王国の占星術師「工クセイル」
神々の魔術書に宿る精霊「クリム」
賞金首から恐れられた賞金稼ぎ「レミオ」
彼らは後に英雄と呼ばれる者たちと関わり、多大な影響を与えたと言われている。
近年の研究によって明らかになった彼らについて、英雄たちとの関係性の面からその人物像に迫った記事の一部を紹介する。
「ヴァイスも一目を置いた天才キルファ」
彼はヴァイスと同じアタルヴァ軍に属し、連携して軍の危機を救ったとされている。だが実は二人に直接的な関りはほとんどなく、軍内で彼らが会話するところを見た者は誰もいないという。それでもお互いの思考を正確に読み取り適切に行動する彼らは、常人には理解できない領域で通じ合っていたのだろう。
「ダルバンシェルの良妻工クセイル」
陰ながら夫を支えた良き妻として知られる彼女。結婚後もその奥ゆかしい態度は変わることなく、常に一歩引いたところで待機していたという。彼女が一つだけ夫に要求したことと言えば、「ずっと元気でいること」。 絵に描いたような理想の夫婦の姿に、王国中が羨望の眼差しを注いだ。
「“エリモと一緒にいたい”精霊クリム」
クリムはエリモが神域にたどり着くまで一度もエリモの前に姿を現したことはなかったのだが、旅をするエリモを見守るうちに、エリモのことが大好きになっていた。神域を去った後もクリムは片時もエリモから離れようとせず、これまで話せなかった分、疑問に思ったことは何でもぶつけ、エリモを困らせていたという。
「ゼルナイトを追い続けた賞金稼ぎレミオ」
名うてのバウンティ・ハンターとして名を馳せたレミオだったが、怪盗ゼルナイトを追い始めてからは、あまりいい所がなかった。いつも一枚上手なゼルナイトに翻弄され続け、その逸話は次第に世間にも知られるようになっていった。グレメスト王国のパーティに出席した際には、同国の重臣ヴィンスに「無駄なことはやめておけ」と言われ、あわや喧嘩になりそうになったこともあったという。ところがある事件をきっかけにゼルナイトの方がレミオを認めるようになった。レミオが生涯をかけて追い求めていた仇敵の情報もゼルナイトが与えたものではないかと専門家は分析している。

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人型兵器リリスを生み出したことで知られる異界の科学者レーゼ。彼女はリリスを開発するより以前に、2体の試作機を開発していたと言われている。その名はレミスとルシェ。リリスは彼女たちの性能を受け継いで造られたのだ。しかし、完成した3体の人間兵器とレーゼには、過酷な運命が待ち受けていた。
レーゼが兄レイスの影響を受け、初めて生み出した人型兵器、レミス。近接戦を得意とする彼女には、いち早く敵を察知する機能が内蔵されていた。だがそれは、あらゆる物を敵か味方のどちらかに断定するものだった。試験運用では、模擬戦の終了を告げたレイスを敵と認識し、攻撃してしまうこともあったようだ。
レミスの研究結果を元に造られたのが、2番目の人型兵器となるルシェである。思考や判断能力が改善された彼女であったが、自分と同じように人間も修理可能と考えるなど、その認識には問題があったという。だがレーゼは“機械の間違いは創造主の間違い”とし、共に学んでいこうと声を掛けるのだった。そうしてレーゼはレミス、ルシェから改良を重ね、ついにリリスを完成させる。
その頃、レーゼの兄レイスは、ヴィシュラと呼ばれる人体強化兵器の開発にのめり込んでいた。ヴィシュラは自身の進化のために攻撃性を高めていく。それを危険視したレーゼはヴィシュラを強制停止しようとするも、逆に暴走させてしまう。
レミス、ルシェ、リリスは、主を守るため己の身を顧みず戦うが、自己進化能力を有するヴィシュラは二人の性能を大きく凌駕した。
自我も持たず破壊行動を続けるヴイシュラ。“機械の間違いは創造主の間違い”とレーゼに教えたのは、他でもない兄レイスだった。自分が信じた道。進化の果て。それを目の当たりにしたレイスは、ヴィシュラの攻撃からレーゼをかばい、息を引き取る。
呆然とするレーゼに、3体の機械は命令を促した。彼女たちの身を案じ命令を出せずにいたレーゼだが、リリスに「私たちはマスター自身」と言われ、レイスの教えの本当の意味を理解する。そしてレーゼはついにヴィシュラの破壊命令を下すのだった。
「機械は創造主自身」その言葉通りに、リリスたちは闘い続ける。しかしヴィシュラが止まることはなかった。レーゼは離脱を命令する。だが、「ヴィシュラを止めたい」「街の人を守りたい」彼女たちの言葉全てが、紛れもなくレーゼの意志であった。レミスとルシェはヴィシュラに敗れ、機能を停止。その意志、記憶、人格全てがリリスへと統合された。そしてリリスは最後まで主と共にあったという。
機械とは、常に人間の命令に従うもの。主の命令を処理し、忠実に実行する。つまり機械とは、創造主自身である。その覚悟を持つ者だけが、創造主たり得るのだ。

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アクラス召喚院開拓局調査部調査課
タリサ・カーソン
ネグレスに関する報告書
ネグレスの戦力について現在明らかになっている情報をまとめてお送りします。
敵は七つの軍団に分かれており、それぞれ異なった特性を持つことが判明しました。
黒騎(こくき)軍
黒い鎧に身を包んだ戦士たちで構成された兵団です。鎧で隠されているため断言できませんが、彼らは人間あるいはそれに近い種族だと思われます。一般的な剣士の部隊、大きな盾を携えた重装の部隊の二種類が確認されており、士気が高くネグレスの中でも主力と位置づけられる部隊と思われます。
闇屍(あんし)軍
死体を繋ぎ合わせて造られたと思しき魔獣で構成された厄介な兵団です。戦場で敵味方問わす死体を貧りながら戦うおぞましい魔獣の群れと、毒性の強い体液を持つ竜種と見られる群れの二種類が確認されています。通常の戦闘で撃破することは難しいため、専門の部隊を編成する必要があるかと思われます。
魔幻(まげん)軍
人間、もしくはそれに近い種族の魔術士で構成された兵団のようです。上位と下位の二系統の術士が確認されており、魔術に特化した戦術を取るため、正面からの攻撃は危険と考えます。対魔術師用の作戦、あるいは装備が必要であると強く具申させていただきます。
破獣(はじゅう)軍
魔獣や獣人のみで構成された兵団と思われます。特に危険なのは、軍用に訓練された狼の一団と、鼻先に角を持つ獣人で構成された部隊です。それぞれ機動力と突破力が侮れないため、その点を念頭に置いた作戦立案をする必要があります。
奇遊(きゆう)軍
いずれも奇抜な扮装をした怪人で構成された兵団です。作戦中であっても不可解な行動をとることが多く、行動が読めません。私見では個々の能力は他の軍団に劣るように思われますが、奇妙な動きによってこちらの戦術が崩され、思いもよらぬ被害に遭う可能性があるためご留意ください。
氷麗(ひょうれい)軍
陣容が定かではない兵団です。交戦した部隊によって、精霊種で構成されていた、蛇を思わせる獣人の部隊であったなど、それぞれの報告が異なっており、現在裏取りを急がせております。戦術面でもこちらの予測通りに動くことがなく、私見ではありますが、二面性があると感じております。
機鎧(きがい)軍
機械人形で構成された兵団です。機動力に優れたもの、装甲と出力に優れたものの二種類が確認されており、技術者に解析を行わせていますが、非常に高い技術が駆使されているようで、難航しております。イクスタスやベクタスの技術水準を上回りかねないと思われますので、開発局より専門の研究者を派遣するよう要請いたします。

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アクラス召喚院でのさらなる活躍が期待されている、若き召喚師たち。
頼れる魔討隊隊長「ロイ」
期待の新人召喚師「サーシャ」
セリアの一番弟子「ウォレス」
最年少の魔討隊隊長「ヨシュア」
ルジーナの腹心「ハンス」
彼らの実績については知る人ぞ知るところだが、その人物像を探るのに適した報告書が見つかった。
アクラス召喚院開発局研究開発課所属
マルク・ローレンツ
魔神討伐隊同行任務報告書より抜粋
皇国歴299年8月17日
第三十一魔神討伐隊「サンクオーレ」同行任務初日。隊長はロイ・バーニンガム。ちょっと頼りなさそうだが人は良さそうだ。新人のサーシャ・ベイルもかなり優秀だと聞いているし、今回の任務はそれなりに楽そうだ。
皇国歴299年8月18日
新人のサーシャは確かに有能だが、何故かタメ口で話し掛けてくる。一応、こっちの方が年上なのだが。まあ、任務に支障はないので良しとする。どことなく偉そうな態度は父親譲りだと誰かが言っていたような気がする。
皇国歴299年8月20日
隊員同士の連携ミスによりトラブル発生。巡り巡って何故か自分に責任を押し付けられそうになったが、隊長のロイに助けられた。いいやつだ。
皇国歴299年9月13日
第十九魔神討伐隊「ブラッディローズ」同行任務初日。隊長はあの召喚老セリア・イングレス。最大限の敬意を払ったつもりだが、何故か怒られた。厳しい。隊員のウォレス・ベイカーがなぜか慰めてくれた。
皇国歴299年9月15日
今日は、ウォレスがセリア様に怒鳴られていた。自分の見たところ、ウォレスはそんなに悪くなかったような気もする。それでも顔色一つ変えず忠実に任務を遂行するウォレスは やっぱりすごいと思う。
皇国歴299年10月10日
第三十魔神討伐隊「オーダーオブライト」同行任務初日。隊長はヨシュア・アルトネン。自己紹介をしたら、無視された。帰りたい。
皇国歴299年10月11日
ヨシュアはほとんど喋らず、隊員に命令もせずに一人で任務をこなしてしまう。これで大丈夫なんだろうか、この討伐隊。
皇国歴299年11月4日
第二+三魔神討伐隊「スカイガーデン」同行任務初日。隊長はルジーナ・ベイル。見てみるとサーシャとは全然似てない。隊員のハンス・コーレインに話し掛けたら無視された。召喚師はコミュニケーション能力が不足しているのだろうか。
皇国歴299年11月6日
ハンスが同行すると、調査がとても捗る。相変わらず全く口は聞いてくれないが、おかげで仕事は早く終わった。あの少ない口数だけで状況を理解するルジーナ様も、すごい。
ちなみにこの報告書を提出したマルクは上司はもちろんのこと、その後、方々からもこっぴどく怒られたという。

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古い時代、知らぬ者は無しと謳われ隆盛を誇る闘技場が存在した。世界各国から参加者と観客が集い、連日の賑わいを見せていたという。そんなグランガイア闘技場の最盛期、史上空前の人気を誇ったチームが存在した。
彼らの名はゼクタサ。
リーダーの名はグレン。灼熱の拳を持つ男。彼の戦いは観客の心に火をつけ、闘技場は異様な熟気に包まれたという。だが、彼はただ熱いだけの闘士ではない。仲間たちに的確な指示を与える司令塔としても非常に優秀だったと伝えられている。
グレンと共にゼクタサを結成したランザ。生まれながらの闘士。彼は両親共に闘士であるのみならず、なんと闘技場で生まれ落ちたという伝説がある。彼はグレンの好敵手であったが、共に戦う機会を得て知ることになる。彼と組めば誰にも負けないということを。
二人組のゼクタサがグループになる契機を作った才女エレノア。雷鳴轟く闘技場の女王。高位魔術師であった彼女はその地位を捨てることも厭わないほどグレンの闘技に魅了されていた。そして、その熱意は彼女自身が闘士そして、その熱意は彼女自身が闘士となることで昇華された。
突如としてゼクタサ加入を発表し、全世界の闘技ファンを仰天させた女性闘士ジャニス。誰も触れることのできない一輪の花。その渾名は彼女がただの一度も傷を負ったことがないという意味だが、実は体中に無数の傷があったと言われている。
最後にゼクタサに加わったのはアスト。氷の貴公子として知られる美丈夫。彼は没落した貴族の出身であり、家門復興を志し、富と名声を求めて闘士となったという。しかし、彼は闘技場で繰り広げられる力と技の共演の虜になってしまつた。
人気絶頂のゼクタサに無謀にもたった一人で挑み狂人扱いされた新人闘士がいた。その名はゼクウ。出身出自職業本名すべてが謎に包まれた孤高の剣士。しかし、その狂人は成し遂げてしまったのだ、最強の五人を打ち破るという偉業を。会場は大荒れ、観客の怒号が飛び交う中、涼しい顔で退場して行くゼクウに、グレンは再戦を要求した。
どんな運命の悪戯か、再戦は天変地異によって無効試合になったという。その際に崩壊した闘技場はその後再建されることなく、人々が闘技に熱狂した時代は終わりを告げた。
ゼクタサは倒壊する闘技場から観客を救うため死力を尽くしたと言われている。彼らの尽力により観客の多くは助かったが、瓦碑の下に消えてしまった命も少なくは無かった。その中にはジャニスの姿もあったという。
ランザもまた片足が動かなくなるという闘士にとって致命的な傷を負い、失意の中両親の故郷へと居を移し、そこで酒場を営んで暮らしたと伝えられている。
ゼクタサの面々は闘技場を再建しようと各界の要人に働きかけたが、時代がそれを許さなかった。グレンはアグニ騎士団への加入を嘱望され、アストは本来の貴族としての役目を果たすことを期待されたという。
なお、騎士団の勧誘を断ったグレン、そして元の地位に戻ることを良しとしなかったエレノアには、ゼクウを追ってこの世ならざる場所へ旅立ったという伝説が残されている。ランザの酒場で語られたこの与太話の真相を知ることは難しいだろう。

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かつてグランガイアに存在した力ある神 仕える者たちを「神徒」と呼んだ。
遥か昔、主要な神々に刃向かい、異界イシュグリアに幽閉され、互いに争うよう仕向けられた神徒たちがいたという。
智謀の神に仕えた力の信奉者「アルファ」
古き神に仕えた流浪の異端者「テイザー」
統治を司る神に仕えた内向的な「トーラ」
創造の神に仕えた秩序を求める「カノン」
失われた神に仕えた相剋の力持つ「キラ」
大神皇に仕えた命の調停者「フィーヴァ」
彼らはいずれも上位神に匹敵する力を持ち、それゆえに神々の覇権を握ろうとする封神から疎まれていた。そこで、封神は巧みに陰謀を巡らせ、彼らを消すための罠を用意した。アルファは元より自身の仕える神に幾度も戦いを挑み続けており、主もまたそれを向上心の表れだと喜んでいた。ある挑戦の後に深手を負ったアルファを見た封神は傷を癒せる場所と偽り、イシュグリアの結界を提示した。彼はその言葉を信じて身を寄せたという。
テイザーは仕えていた神を他の上位神によって滅ぼされている。封神は彼の復讐心を煽ると、仇敵である上位神への戦いへと駆り立てた。戦いに敗れた彼は、封神の誘いに乗り、イシュグリアの結界へと身を隠したという。
トーラは争いを好まぬ神徒であった。 仕える神に命じられるまま、数々の戦いに狩り出されていた。ある時、非道な儀式への参加を求められた彼女は、これを拒み叛逆罪に問われることとなる。封神は隠れ場所としてイシュグリアの結界を提供したという。
カノンと彼の仕える神との関係は独特なものであった。面従腹背を良しとした上位神だったが、ある時彼はその地位に取って代わろうと考えた。戦いは熾烈を極め、傷付いた彼は封神の誘いに乗り、イシュグリアの結界で力を蓄えることを選んだという。
キラが仕えていた神は彼が起こした事件の責任を取る形で神格を奪われ、名前を抹消されている。それ以来、荒んだ日々を送っていた彼は、ついに大神皇にまで戦いを挑み、敗れた。そして、封神によってイシュグリアの結界に幽閉されたという。
フィーヴァは最高神である大神皇に直接仕える格の高い神徒であつた。だが、大神皇の力を削ごうと企んだ封神は彼女を罠に陥れ、罪にまみれた邪悪な存在の烙印を押す。犯した罪への刑罰として、彼女は封神の用意したイシュグリアの結界へと封じられた。
こうして結界に閉じ込められた神徒たちは、封神から互いに争い勝利した者に自由を与えると告げられた。ほとんどの神徒は封神を信じてはいなかったが、どのみち結界を出るためには他の神徒を倒し、力を奪う必要があったため、望むと望まずとに関わらず、争いは開始された。
叛逆の六神徒と呼ばれる彼らの戦いは壮絶なものであり、その経緯を詳しく知ることは難しい。だが、戦いの最終局面において、満身創盾となった神徒たちの前に封神が現れ、彼らにとどめを刺したと伝えられている。

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魔剣を手にした劇団出身の少年「ハイネ」
魔盾を携え街を護る青年「セディオ」
魔鎧を纏い異界を探す壮年の学者「ランゲ」
異界「アートリア」を旅した彼らだが、彼らがどういった旅路を辿ったのかは断片的な記録が伝えるのみである。ここに、ひとつの資料が存在する。これがどのような経緯で作成されたのかはわからず、異界そのものの探究に大きく寄与するとも言い難い。
だが、何者かによる聞き取りとその文字起こしらしきこのメモは、彼らの人となりや関係性が伺える意味においてたいへん興味深い資料だと言えるだろう。
兜の月第4節12日 記
セディオ君の事かい?そうだなあ……こんなことを言ってはありきたりかもしれないけど、彼はあれはあれで中々心根の良い青年だよ。道中で困ってそうな人を見かけた時、ずかずか近寄って真っ先に声を掛けるのだって彼だからね。
ほら、こんな感じだ。
「何やってんだアンタ、邪魔だろ」って。
――あまり心配してる感じがしませんね…。
……ははは、そうなんだ。けどそうやって、邪魔だとか言ったりしておいて、荷物ごとご婦人を担いで歩いたりしてね。素直じゃないんだな。しかしま、異界と無関係な事件にもあれこれと巻き込まれたが、ほとんどは彼がきっかけだった気がするね。
――彼はトラブルメー力一ですか?
いやあそう言いたい訳じゃないんだ。彼がいなければ、私と少年だけではきっと見過ごしていただろうからね。私は彼がいて良かったと思っているよ。
……おっと。これは彼には内密にね。彼が耳にしたら私が怒られてしまう。あくまでここだけの話、ということでひとつ頼むよ?
――では剣を手にしたあの少年について。
ハイネ君か……良い子じゃないか。
少し引っ込み思案なところもあるが、彼には隠れた強さがある。いざという時、自然と一歩を踏み出すことができる心を持っている。世に立派な人物は多いが、多くは絶え間ない鍛錬と自省によって、動揺する心を自覚的に踏みとどまらせているものだ。だが彼のそれは、いわば天性のものだよ。
――そこが優れている、と?
いやいや、両者に優劣があるんじゃないさ。だが自然に形作られた心は、それ故に儚いものだ。時として自らを信じられなくもなる。だからこそかもしれないね。彼は何処か、その背を押してやりたいと感じさせられる。その強さを育ててやりたいと。
意外とでも言いたそうな表情だね。私だってたまには誰かへの好意を素直に示したいと思うこともあるさ。
……あ!そうそう!
大切なことを忘れていた。彼は恋をすべきだね。それも自らを見失うほどの情熱を伴った恋をね。
なんだい?手を繋ぐまで3ヵ月…?いやあダメだダメだ!そういうのではなくて……。
――そ、それより、そろそろあなたご自身のことなどお聞かせ願えませんか?
……ん?おや。私のことかい?私のことは秘密だよ。大人の男にはちちょっとくらい秘密があった方が魅力的に見えるという事さ。
――約束破るなら、酒代持ちませんよ。
……ははは!君も中々油断ならないな。
そうだね……それなら異界について話をさせてもらおうかな。君は「異界」と聞いて何を思い浮かべるかね?
――おとぎ話、ですかね。
うん、そんな感じだろうね。けれど私には、それらのおとぎ話がただの夢物語とは思えなかったんだ。世界中に散らばっているおとぎ話に、様々な武具の存在が語られているのは知っているだろう?
10歳くらいの頃だったかな……私はおとぎ話を真に受けて旅に出てね。3日ほどの大冒険だよ。けれどその旅で、錆びた銅剣に辿り着いたんだ。本当にあったのさ。おとぎ話に語られていた通りの武具がね。
――それは大発見ですね。
残念ながら、剣からかつての力は失われていてね。考古学的価値は認められなかった。けれど、それで私は考えたんだ。もしや、他のおとぎ話に語られている内容も本当のできことなのではないか……おとぎ話に語られている「異界」も、実在するのではないかとね。世界に散らばるおとぎ話には様々な武具の存在が語られていた。ならば、まず第一のヒントはそれらの武具さ。遺跡に埋蔵されたそれらこそが異界の手がかりになる。
―なるほど。ではあなた方の武具も?
その通り。先の事件で見つけた3つの武具はこれまでの研究の中でも最大の成果のひとつだよ。完全な力を保持した状態で武具が埋蔵されていたんだ。これらは我々の世界には存在しない材質で作られ、我々には再現不可能な技術が用いられている。
わかるかい。「おとぎ話」と「現実」が遂に接点を持ったんだ。
どうかな。これでもまだ異界を我々の世界とは別の世界の存在を、荒唐無稽だと思うかい?
――夢を感じますね。信じても良いかなってちょっと思ったのは確かです。
ははは。それは嬉しいね。まあ夢があるっていうのは大切さ。信じることの第一の原動力は夢だ。いうなれば、私は今も、子供のころ見た夢を追いかけ回しているようなものだからね。これは一生続くんだろうな。
――面白い話をありがとうございました。それで、次はあなた方が破壊した遺跡について現地の市民から届けられた苦情のお話を……
あれ?ちょっとランゲさん!どうし……逃げるんですか!ランゲさん!?

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リードたちによってエルガイアに辿り着いた人類は、大きな混乱を経て臨時政府を立ち上げる。しかし、臨時政府は決して一枚岩とは言えず、彼らに従わぬ者も少なくなかった。臨時政府が欲しかった求心力、それは英雄の息子ルーシェと娘リメラの加入により実現する。当時臨時政府の議会があった地名を取って「ランドールガード」と名付けられた騎士団は、民衆をまとめ上げるための象徴となった。
初代ランドールガード、それはグランガイア黎明期の迷える人々に希望を指し示した正義の騎士団だった。彼らランドールガードは周辺地域の警備や犯罪の防止などのほか、皇国に出現した魔獣被害の調査および鎮圧任務などを主として活躍したと記録されている。
英雄リードとルカナの息子ルーシェ」
英雄リードとルカナの娘「リメラ」
軍師ヴァイスを敬愛する軍師「エステル」
剣と銃を扱う自称空賊「ジリアス」
名前と顔を隠して戦った剣士「ファーゼン」
ヴェーダ剣術を学んだ剣術士「ラベルド」
「隊長ルーシェ」
両親からの頼みで妹を追い、臨時政府軍へ加入した彼だが、両親の言葉や妹の励ましもあり、自身が指導者としての自覚を持ち、様々な経験を通して成長していく。後のランドール繁栄の基礎を彼が生み出したとも言っても過言ではないだろう。
「魔導師リメラ」
両親への反発から臨時政府軍に加わった彼女は、自ら前線に立って人々を救いたいという気持ちが人一倍強かった。時にはルーシェやエステルから叱責を受けることもあったが、その熱い気持ちは次第に他の隊員たちにも伝播していったという。
「軍師工ステル」
ヴァイスの心酔者である彼女は、彼の戦術を模倣することで被害を最小限に抑えた戦果を多数上げたと伝えられる。なお、模倣の先は創造であると確信した彼女は、ある戦い以降は独自の戦術展開を行い、数々の武功を上げたという。
「自称空賊ジリアス」
彼は剣と銃を同時に扱い、我流ながらも華麗に使いこなした。なぜ2つの武器を同時に扱おうとしたのか。それには、かつて彼の命を救った2人の英雄の存在があった。憧れる彼らになりたい、見様見真似で始めたことがいつしか形になっていたのだという。
「剣士フアーゼン」
彼は素性を語らず常に仮面で顔を隠していたため、彼が何者であったのかすべては謎に包まれている。また極秘任務に従事することも多かったため、仲間たちも彼の深くを知らなかった。しかし後の魔神戦では仲間を信じ、最後まで役割を全うしたと伝えられる。
「剣術士ラベルド」
彼は剣術の才能に溢れ、老剣士ドルクよりゼルバーンの名を与えるに相応しい人物とまで言われた。その後、剣術を究めることよりも習得した力を世の中のために使いたいと考えた彼は、ランドールガードの一員として己が信じる正義のために剣を振るうことになる。
その後、エルガイア各地域の集落や都市、小国家間の交易や相互援助あるいは競争をもってエルガイアの人口は拡大し、目覚ましい発展を遂げていく。これらはランドールガードの働きによって生み出された平穏あってこそのことだろう。後の皇国建国の基礎は、ルーシェ率いる初代ランドールガードによって築かれたと言っても過言ではない。

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B.I.E30年頃――
セルタビアのルーメラクス地方で、人々に愛されていたというある絵本作家がいた。その名はフェブラー兄弟。物語の執筆を担当する兄ディクトと、挿絵を担当する弟レティストの兄弟作家である。
幼少の頃より両親の遺した膨大な蔵書に囲まれて育った彼らは、自然とそれらの物語の魅力に囚われていったという。兄は空想の物語を弟に語り聞かせ、弟は想像した世界をキャンバスに描いた。
兄弟が絵本作家としてデビューしたのは、兄19歳、弟18歳の頃だった。彼らの紡ぐ心温まる物語と、親しみやすい登場人物たちは幅広い世代の人々の人気を呼び、彼らは瞬く間にベストセラー作家となった。
ここではそんな彼らの代表作とも言える4つ の作品のあらすじを紹介する。
『ひとつの願い』
望めば何でも願いを叶えることができるという宝石の精霊、ネスタ。人々の欲望のままに望みを叶えてきた彼女が、長い時を経てある貧しい青年の手に渡ったところから物語は始まる。青年の前に現れた彼女は、お前の望みは何かと問い掛けた。しかし青年は何も望まず、ネスタは戸惑いを見せる。すると青年は彼女を連れて旅に出ると言った。青年は各地を旅し、自分よりも貧しい人々のために精霊の力を使った。善悪の価値すら知らなかったネスタは、青年との旅の中で様々なことを学んだ。だがある時、精霊の力を聞きつけた悪党たちが彼らを襲う。青年はネスタに、悪党たちの手の及ばない、遥か遠くの地へ行けと願った。それが青年自身が望んだたったひとつの願いだった。1人になったネスタは途方に暮れる。しかし、彼女はもう一度歩き出すことができた。彼女は青年との旅の中で、自分のすべきことを見つけていたのだ。それからネスタは貧しい人々の前に姿を現し、そのささやかな願いを叶えていった。後に彼女は願い事を叶えてくれる幻の妖精として語り継がれるようになったという。
『いばらの城』
いずれ世界に破滅をもたらすという呪われた姫、クロネア。彼女はこの世に生を受けたその日から、15歳になると恐ろしい呪いにかかると予言されていた。姫はすくすくと成長したが、15歳の誕生日が近付くにつれ、城中の者が彼女を忌避し始める。その意味を悟った姫は、徐々に人との関わりを避け、城にある塔の中に閉じこもった。そして15歳になった時、ついに彼女の呪いが現実のものとなる。それは触れたものが全て茨に覆われるというものだった。姫は自らの呪いの力で城を茨で覆い、誰も近付けないようにした。茨は彼女の意志とは関係なく増殖を続け、このままでは世界を覆い尽くしてしまうのではないかと思われた。やがてたくさんの者たちが、呪いを止めるために姫を殺しにやってくる。だが固い茨の壁に閉じこもった姫に誰も近付くことはできなかった。そんな中、ある国の王子が姫を討伐する命を受けて城にやってきた。しかし、偶然塔の外に出ていた姫を見た王子は姫に一目惚れしてしまい、外に連れ出そうとした。姫の呪いによって王子は深い傷を負うが、それでも王子は姫のことを受け入れ、共に生きようと誓った。姫が王子に心を開いた時、張り巡らされた茨が全て消え去った。 姫が王子に心を開いたことで、呪いが解けたのだった。
『嵐妖伝』
災いを起こし、長い間封印されていた妖魔、メイリン。ある日、村を訪れた神官が偶然彼女を見つける。気の毒に思った神官は彼女の封印を解いたが、目覚めたメイリンは再び暴れ出し、村を襲おうとした。彼女を鎮め、神官は事情を聞く。彼女は空から自分の武器を村に落としてしまい、それを取り戻そうと村を襲ったのだった。神官は村人たちに彼女の武器を返すよう求める。しかし村人はそれを断った。メイリンの武器は幾度も村の危機を救ったといい、現在は村の祭壇に厳重に祀られていたのだ。神官はメイリンに、武器を返してもらえるよう、村人たちに善い行いをしなさいと提案した。彼女はそれに従うが、村人たちは彼女を受け入れようとはせず、逆に怒りを買ってしまう。その時、村を大嵐が襲った。嵐によって祭壇は破壊され、メイリンは自分の武器を取り戻す。そのまま立ち去ろうとした彼女だが、孤立した村人たちを必死に助けようとする神官の姿を目にし、その救助に加わった。無事助けられた村人は彼女に感謝し、武器を返してくれた。それからメイリンは神官の度に同行し、たくさんの人々を救って回ったという。
『水底姫』
海の中の城の話を聞いて育ったある漁師の青年は、漁をしていて溺れそうになったところを巨大な魚に助けられる。それは彼が昔、陸に打ち上げられていたところを助けた巨大魚だった。巨大魚は漁師を海の底にある城まで連れて行くと、美しい姫の姿に変身した。その姿に目を奪われた漁師は、海の姫アマネと夢のような時を過ごした。しかし漁師は陸に残してきた家族のことを思い出し、帰らなければならないと言う。姫は大いに悲しむが漁師に大切な匣を託し、彼を送り返す決意をした。漁師は必ずもう一度会いに来ると約束し、地上へ帰って行くが、途中で姫にもらった匣が開き、白い煙に包まれる。目覚めると漁師は地上に戻っていたが、海の代での記憶を全て失ってしまっていた。姫が渡した匣は記憶を忘れさせるもので、海の城から去る人間には必ず渡さなければならないものだったのだ。それを知りながらも、漁師の現実世界での幸せを願った姫は、海の中から漁師を見守り続けた。それから数年後。漁師は海で泳ぐ巨大魚の姿を目にする。その瞬間、奇跡が起こり、漁師に姫の記憶が蘇る。漁師はようやく約束を果たすことができた。

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星に導かれた英雄の鍛冶屋「ガーラント」
恐怖に彩られたサーマの海賊「スティア」
若くして武の神髄に触れた拳闘士「ネミア」
雷と見紛う神速の脚を持つ武闘家「ゼレン」
あらゆる秘境を踏破せし若き勇者「アルマ」
歴史の影に潜む異界の忍者「オボロ」
孤高の戦士と称される彼らは、人間と神々の大戦に際して抵抗した英雄たちである。六英雄の影に隠れがちだが、その活躍は決して引けを取るものではない。ここでは、現存する資料を元に、彼らの人となりについて記す。
「英雄の剣を鍛えたガーラント」
神軍に立ち向かう英雄に、鍛冶師として最高の武器を提供したい――煮え滾る溶岩の如き情熱は、鍛え抜かれた刃に宿る。火山の炎より生み出されたこの剣こそ、数多の神を斬り伏せた名剣ダンデルガだ。英雄の中の英雄、ヴァルガスの愛剣である。友の想いを乗せた剣は一閃炎を纏い、魂を燃え上がらせた。
「恐怖と共にその名の残るスティア」
凶悪な性格で知られる彼女だが、メザに対し特別な想いを抱いていたものと思われる。それが愛情なのか、憎しみなのか、本人にも区別がついていなかった可能性もあるが、メザが危機に瀕したその時、自分の本当の気持ちに気付いたことだろう。愛憎とは表裏一体であるとはよく言ったものである。
「トルティア武芸院の可憐な花ネミア」
彼女は数多の武闘会で優勝したとされるが、最初の大会での決勝は、同門の先達との戦いとなった。武芸院に伝わる奥義を駆使する相手に苦戦したネミアだが、しぶとく、粘り強く戦い続け、遂には奥義を見切ってしまう。以来、彼女は破竹の快進撃を続けながら、奥義の数々を習得していくのだった。
「臆病な性格を克服した武闘家ゼレン」
一人前になる前のゼレンは武芸院に馴染むことができず、家に帰りたいと泣き言をこぼしていたという。そんな彼に転機が訪れる。何かにつけて声をかけてくれるネミアに恋をしてしまったのだ。恋は人を変える。ネミアと肩を並べられるようになりたい。その一心でゼレンは修行に励むようになった。
「勇者の血統に生まれた剣士アルマ」
彼女が両親と共に世界各地を巡っていた時、たまたま一人になった彼女は凶悪な魔獣の群れに囲まれてしまう。しかし、彼女は怯むことなく剣を抜き放ち、魔獣の攻勢を乗り切った。この一件で娘の成長を実感した両親は、彼女に後を任せられると確信し、世界を救うため古代遺跡へと旅立った。
「闇に紛れし異界の忍オボロ」
恐らく、オボロは鳳刃那原の出身だと思われる。かの地には朧流という忍術流派が存在するが、関連は未だ調査中である。忍者として卓越した戦闘技術を持つオボロだが、彼が得意としたのは諜報と撹乱であった。もし、偶然残された記録が無ければ、我々はその存在にすら気付けなかったことだろう。

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大神皇力ルナ・マスタの神意を伝え、神の敵を討つ選ばれた戦士たちがいた。彼らは“大神皇神衛使メイリス”と呼ばれる。同じく神の意志に従い戦う者たちである護神十二聖が人と神の仲立ちをする性格を持っていたのに対し、メイリスは神の断罪を象徴していたと言われている。
灼熱の槍を振るう騎士「クレア」
氷烈の剣輝かせし騎士「クルト」
風樹の剣に導かれし剣士「クェイド」
雷鳴の剣を手に華麗に舞う剣士「ディアナ」
生命の鎧に身を包む神官「ファダル」
星の杖を掲げし魔導師「イヴリス」
“イシュグリアの悪しき魔神を討伐せよ” 大神皇より下された神託を果たすため、彼らは神授の武具と共に異界の地へと赴いた。順調に異界を進むメイリスだったが、彼らの前に封神の神徒メロードが現れ、神託の騎士団と呼ばれる一団が大神皇カルナ・マスタに叛旗を翻した事実を告げる。メロードは彼らに急ぎ帰還し、件の騎士団を討つよう命じた。大神皇の勅命ではないため迷うメイリスだったが、魔神と逆賊を同時に討つため、隊を二分することに決める。
グランガイアへと帰還したクレア、クルト、ファダルは、神託の騎士団と壮絶な戦いを繰り広げた。だが、戦力の半減していたメイリスは劣勢となり敗北したと伝えられている。
「ラ・ヴェーダ共和国の騎士クレア」
彼女は弟に対して非常に過保護だったと伝えられている。弟の存在は厳格な大神官の娘として生まれ、騎士として将来を嘱望された彼女にとっての癒しであり、ある意味相互に依存する関係であったという見方もある。そんな彼女がクェイドというこれまでに会ったことのない性格の男性に惹かれ、自身の在り方を変えようとしたことは大変興味深い。
「クレアの双子の弟クルト」
同時代の人々の記録した彼の評価にはばらつきがある。これはメイリスの一員となる前の彼が、人格的に末成熟であったことに起因する。だが、クェイドとの確執が信頼関係に変わっていく過程で彼は大きく成長した。その成長こそが、姉弟が互いに依存する関係から自立する契機となったのだろう。だが、姉を慕う気持ちは生涯変わらなかったようだ。
「初代メイリスの末裔たるファダル」
己がすべてをなげうち神勅を優先してきた彼だが、その信仰心の強さゆえに誤解されることもあった。というのも、己を律する厳しさを他者にも向けたため、冷血漢、人の心のわからぬ男などと陰口を叩かれていたのだ。だが、実際の彼は誰よりも心優しく、神への信仰もまた、世界の平穏を願う気持ちに端を発していたのだといわれている。
イシュグリアに残ったクェイド、ディアナ、イヴリスは、当初の目的通り魔神の討伐に成功するが、グランガイアで起こった事件の影響で帰路を閉ざされてしまった。彼らは異境に散ったと伝えられている。
「流浪の身から選ばれたクェイド」
クェイドの前半生を詳しく知ることは困難である。グランガイア各地で人々を救い、数々の伝説を残しているが、その中には単なる伝説であり事実ではないものも含まれているためだ。風の旅人と呼ばれるこうした伝承が彼の活躍を下敷きにして生まれたことは間違いないが、元々あった別の伝説を取り込む形で発展していったものと思われる。
「漁師の娘から神衛使となったディアナ」
貧しい寒村の海女となるはすだった彼女が何故、剣技に目覚めることになったのか、その原因については諸説ある。また、彼女の剣は独学我流であるにも関わらず、美しい型を持っていた。田舎娘が突如神に選ばれたという点ばかりが伝えられているが、もしかすると、世に知られていない別の何かが彼女の背景には存在したのかもしれない。
「ラ・ヴェーダの名門魔術師イヴリス」
初代メイリスの神官アスタールの子孫が代々名跡を受け継いでいたように、魔術師工クリスの子孫もまた、魔術師の家系を連綿と紡いでいた。彼女はエクリスの末裔であり、姉テミスと共にその再来と謳われるほどの才能を見せていた。しかし、何かと対抗心を燃やす負けず嫌いの姉に絡まれることを嫌った彼女は、その才を隠すようになっていった。

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十忌ディスノミアと呼ばれる犯罪組織をご存知だろうか。そう、エルガイアの黎明期に皇国と連邦を股にかけて、ありとあらゆる罪を犯した10人の凶賊のことだ。
十忌の頭目「シオン」
狂気の天才技術者「イオニア」
凶悪なる盗賊「カミラ」
暴力と闘争の申し子「シーク」
魔導具の蒐集家「ユーグ」
魔獣使い部族の生き残り「パロ」
異界の脱獄囚「ルゴール」
魔導生物を操る人形「マリレッタ」
無邪気な悪意を持つ人工生物「ソラ」
人とは異質な存在「ディアスティマ」
史書はその記述に多くを割かなかったが、彼らが歴史の裏側で引き起こした事件は数知れない。近年では十忌の研究も進み、それぞれの人物像も解明されてきているが、彼らの最期についての記録は少ない。
これは、十忌が壊滅した時期がエルガイア最大の危機とも言われた魔神が出現した頃だったため、災厄の影に隠れてしまったからだと考えられる。インペリアルガードの功績を再評価するためにも、十忌ディスノミア壊滅の経緯を追っていこう。
初代皇帝を暗殺した大逆者「レギル」
十忌に終焉をもたらした者はある意味彼だと言える。一説によればレギルが大逆に至った原因も十忌にあったとされるが、さすがにそこまでいくと伝説の域を出ないようにも思える。ただ、レギルがシオンの掌の上で踊っていたに過ぎないという説は昔から根強い。
レギルは事件後、十忌に身を寄せ匿われたわけだが、彼はイオニアの持つ魂を吸う魔剣を欲していたという。不死の魔神を討つために必要なものだったらしい。
シオンは彼の望みを聞き入れ、イオニアと共に3人で魔神の元へ向かったとされる。その間に、レギルの足跡を辿ったインペリアルガードの大部隊が十忌の拠点を強襲、凶賊たちの多くはそこで命を落とした。
最初にこの世を去ったのは、運命を断ち切る魔導具を持つユーグだったと言われている。彼は魔導具を用いて十忌が全滅する未来を変えたという。この魔導具は、自分自身の望みを叶えるために使う場合、命を代償としなければならなかったとされる。自らを犠牲として彼が守りたかったのは誰だったのだろう。
ジークが真っ先に迎撃に飛び出したのは言うまでもない。十忌が拠点に籠城すると考えていたインペリアルガードは度肝を抜かれたことだろう。ジークはルゴール・バロと共にその前衛を打ち崩した。彼は騎士を1人倒す毎に人数を数え上げたという。最終的に何人を打ち倒したのかは不明だが、その数が増える毎に騎士たちの士気は挫かれた。
最も壮絶な最期を遂げたのはルゴールだ。彼の身を覆う異界の拘束具の持つ炎の力はすべて解放され、大きな爆発が起こった。周囲に炎に包まれる。彼のこの爆散によって、インぺリアルガードの前衛は壊滅したという。仲間への想いが人一倍強かったルゴールだか、自爆が意図したものだったのかどうかは研究者によって意見が別れている。
爆発の難を逃れた騎士たちは、続いてゾラとマリレッタの攻撃に晒された。この時、ゾラは絶好調であった。心理戦にも長けたソラと対するには、彼が熟知した閉鎖空間である忌の拠点は最悪の場所だったと言える。
だが、ソラが前へ出すぎた結果、魔導生物の使役で隙のできるマリレッタの防備が手薄になってしまう。通常時であれば捌けたであろう攻撃を、ゾラはマリレッタを庇うためまともに受けてしまった、彼の小さな体は小回りが利く反面、脆弱であった。
マリレッタの魔導回路は長い時間を掛けて感情を獲得していたとされるのだが、ソラの死を受けて高ぶり、暴走に至ったという。その結果、限界を超えた戦闘を繰り広げ、徐々に自壊していったらしい。彼女の残骸は回収されたはずだが、行方は分かっていない。
インペリアルガードの記録では、最後に交戦していたのは異形の人物とされている。騎士たちは拠点に残る最後の1人である彼に対して武装解除を呼び掛けたが、言葉が通じていないようだったと証言している。これは間違いなくディアスティマのことだろう。
彼にしてみれば、意思の疎通すら難しい異界の地において、ようやく見つけた安住の地を突然襲われた格好になる。その抵抗は決死のものだっただろう。だが、記録によると、その死は確認されていない。遺体が確認できなかったのか、それともどこかへ落ち延びたのか、いずれにせよ、この事件を最後に、ディアスティマの姿は目撃されていない。

生きることへの貪欲さで定評のあるカミラはこの襲撃から素早く逃げおおせたものと思われる。辺境で法の目を掻い潜り続けたのか、あるいは名前を変えて都会の闇に紛れたか、その後の詳細は分からないが、ふてぶてしく生き続けたに違いない。もっとも、幸せな死に方ができる人物だとは思えない。
確実とは言えないが、バロは乱戦を生き延びたとされている。十忌の面々の最後の様子は交戦したインペリアルガードの証言だけではなく、各地に伝承として残されている。これは、生き残ったパロが仲間たちの記憶を風化させないために、行く先々で人々に語り聞かせたためだと考えられている。
なお、イオニアは意外なことに長生きしたと言われている。魔神討伐以降の記録が乏しいため、伝承からのみの判断となるが、もしかすると、自身の体に何らかの改造を施し、延命を図った可能性もある。
シオンに関してはその最期を語る伝説が無数に存在する。そして、それらの伝説は互いに矛盾しており、どれが真実かを特定することは不可能に近い。彼の墓とされる場所も各地に存在し、いくつかは掘り返されたが、そこに遺体は無かった。
最後にレギルについて少々。彼はインペリアルガードによって討たれた。正史にははっきりとそう書かれている。しかし、その前後の記述は曖昧であり、何かしらの改竄があったことは間違いない。陰謀論者たちは様々な荒唐無稽な説を唱えているが、彼が生きていたとして、その後の人生について真実を知ることは難しそうだ。
彼ら十忌ディスノミアは、歴史の裏側を生きた者たちである。現在知られている情報が、必ずしも正しいとは限らない。新たな発見により、定説が覆される可能性があることに留意していただきたい。

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特権階級に胡坐をかき私腹を肥やす貴族や富豪から財宝を盗み出し、貧しい人たちに分け与えた義賊ゼルナイト。彼の活躍はグランガイアで広く知られており、史実をもとにした物語は様々な形で流布され後世へと語り継がれていった。中でも最も人気があったと伝えられるのが『義賊ゼルナイトと風の姫君』である。ここにそのあらすじを記す。
かつてグランガイア大陸の西方にあったベルデントは小さな王国だったが、険しい山に囲まれた地形のおかげでほかの国からの侵攻を受けることなく人々は平和に暮らしていた。名君と呼ばれたベルデント王は男児に恵まれず子はロザリア姫1人。ロザリアはその美貌と慈愛の心が民に慕われ「風の姫君」と称えられていたという。
ベルデント王は老齢であったため、ロザリアが成人する前に病に倒れほどなく帰らぬ人となってしまう。民は深く悲しみ、重臣たちも涙にくれた。国中が喪に服す中、恐ろしい事件が襲う。ロザリアが、城内より忽然と姿を消してしまったのだ。数日後、ベルデント城に伝言が届く。ロザリアの身柄と引き換えに、王家の宝である宝玉を渡せ、と。姫は宝玉を狙う賊に誘拐されたのだ。
ベルデントには、亡き王が姫の護衛のため創設した騎士団があった。「レディウィング」と呼ばれるその騎士団の中で最も姫が信頼を寄せていた女騎士フィズは、ロザリア救出のため手を尽くす。だが賊の居所はわからず、重臣たちは、姫の命には代えられないと宝玉を差し出すことに決めた。
しかし賊に宝玉を渡したところで、姫が無事に帰ってくる保証はない。ひとつの要求を飲めば次々と交換条件を突き付けられ、王国は賊の食い物にされてしまうだろう。事態を解決するにはやはり姫を奪還する以外にないのだ。フィズは、伝説の怪盗ゼルナイトに姫を盗み出してくれるよう依頼する。無論、この奇策はフィズの独断によるものだった。
フィズの依頼を一度は拒むゼルナイト。食い下がるフィズに、ゼルナイトは報酬として宝玉を要求する。フィズは条件を受け入れ、たとえ罪に問われようとも自分が必ず宝玉を渡すとゼルナイトに約束した。難なく賊の居所を突き止め潜入したゼルナイト。彼の働きで姫は王国に無事戻ることができた。
フィズはゼルナイトとの約束を果たすため、宝玉を盗み出そうと決意する。宝物庫に忍び込んだフィズが宝玉に手をかけようとしたその時、背後から聞き覚えのある声が響いた。
「お前みたいな素人に頼まなくてもこの程度の宝を頂戴するのは俺にとっては朝飯前さ」
ゼルナイトはフィズの力を借りることなく、警戒厳重な宝物庫に侵入していたのだ。
「よく見てみたら、どうってことないただの玉だな。俺が盗むにはふさわしくない。欲しいんだったらお前にやるよ」
宝玉をフィズに投げ渡し、姿を消すゼルナイト。フィズは王家に背かずに済み、事件は全て解決したかのように見えた。
だが王国の危機はこれでは終わらなかった。
姫を誘拐した賊を背後から操っていたのは、邪悪な魔導師グレゴールだったのだ。宝玉に秘められている力をなんとしても手に入れたい魔導師グレゴールは、強硬手段に訴えた。魔獣の軍勢を引き連れ王国を襲ったのだ。
禅戦力を投入し王国を蹂躙するグレゴール。王国軍と騎士団は懸命に応戦するが、魔導師の力は強大で徐々に戦線は後退した。
苦しむ民を見て、自らの無力を責めるロザリア。彼女は、絶大な力を秘めていると伝えられる宝玉の存在を思い出す。ロザリアは急ぎ宝物庫へと向かい、宝玉を手に争いを終わらせる力を望んだ。
姫の戦う意志に反応する宝玉。ロザリアは眩しい光に包まれ、気が付くと醜い魔神へと姿を変えていた。魔神の圧倒的な力は、瞬く間に魔導師とその軍勢を駆逐する。王国は、再び平和を取り戻した。
だが戦いが終わっても、ロザリアの姿は元に戻らなかった。魔神の醜悪な姿は、比類なき力の代償だったのだ。ロザリアはかつての風の姫君と呼ばれた美しさを失い、人前に姿を現さなくなってしまう。フィズは姫を元に戻すため手がかりを探すが、その努力は空しいものだった。王国は側近たちや騎士団によって支えられていたが、姫が姿を隠し続けることで民は不安に思い兵士も浮足立っていた。国の行く末を憂いたロザリアは、ある月の輝く夜、自らの命を絶つ決意を固める。ロザリアを案ずるフィズが居室に入ると、彼女はすでに自らの首元に刃物を突きつけていた。
その瞬間。
聞き覚えのある声が背後から響いた。
「そんな玉のために命を捨てるなんて、くだらねぇ」
声の主は、かつて捕らわれの姫を賊から救い出した怪盗ゼルナイトだった。
「そんなものは、この回答ゼルナイトが盗んでやるよ」
ゼルナイトが手にしていたのは、「退呪の宝剣」だった。宝玉の力がある種の呪いであることを看破したゼルナイトはあらゆる呪いを解くことができる「退呪の宝剣」を、危険な罠や魔獣の脅威をかいくぐり、古代遺跡より持ち出したのだった。宝剣に反応し輝きを増した宝玉。宝剣はその光を全て吸い尽くすと砂のように崩れ月明りの中に姿を消した。
ゼルナイトはロザリアの呪いを盗み、風のように去っていった。美しい姿を取り戻したロザリアはその後、側近たちと力を合わせ賢王として国をまとめたという。回答ゼルナイトの行方は、誰も知らない。

~新編「義賊ゼルナイトと風の姫君」~
より抜粋
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神々との大戦という大災厄を逃れて工ルガイアに移り住んだ人類だったが、新天地においても多くの苦難に襲われた。
その中でもエルガイア最大の危機と言われた 事件が魔神ザルヴアードの復活である。
不死の魔神「ザルヴァード」
不確かな情報であるが、この魔神はイシュグリアから現れたわけではなく、元々工ルガイアの地に眠っていたとされている。
この魔神には他の生物の魂を食らい、自らの内に溜め込む力があった。自身が死に至るほどの傷を負ったとしても、それらの魂を贄として復活を果たすという驚異の能力を持っていたのだ。
魔神は目覚めると同時に周囲の村や町を襲撃し、人々の魂を数多く取り込んでいた。このため、皇国の討伐隊が決死の覚悟で攻勢を繰り返しても、何ら有効打を与えることができなかったのである。一説によると、討伐隊の魂も魔神の糧となり、実質的に魔神の損耗は微々たるものであったらしい。
科学と魔導に通じた技術者「イオニア」
そんな魔神の性質を知ってか知らずか、魔人が眠りについていた時期にその魂片を採取して魂を吸うという性質を持った魔剣を作った人物がいた。後に無法者集団である十忌ディスノミアの一員となる技術者イオニアだ。
だが、イオニアはいつか魔神が目覚めた際にこれを討つために魔剣を製作したわけではない。この狂科学者は、未知の素材に感激し、その性質を解明して新たな兵器を開発することに夢中になったに過ぎない。実際に、魔神が復活し、人々を襲うようになっても、彼女は魔剣を皇国に提供するようなことはなかった。むしろ、彼女が魂片の採取などという余計なことをしなければ魔神の復活は無かったのではないかと疑う者もいる。
しかし、彼女が魔剣を作らなければ、いつかの時点で復活したザルヴァードを討つ手立て が存在しなかった可能性が高い。
皇帝を弑逆せし謀反騎士「レギル」
魔神ザルヴァードを討伐しなければ工ルガイアの人々は滅亡していた可能性すらある。皇帝はそんな最悪の結末を避けるため、皇国すべての兵力を以って魔神を討つ意向だつたと伝えられている。他者の魂を自らの命に変換する魔神を倒すまでにどれだけの犠牲者が出るか、想像に難くない。むしろ、それだけの犠牲を出しておきながら失敗する可能性すら存在した。
インペリアルガードの若手の中で最も将来を有望視されていたレギルは、どのような筋からかは不明だが、イオニアの作った魂を吸う魔剣の存在を知っていた。故に、十忌ディスノミアと称される凶賊たちから何らかの方法で魔剣を手に入れ、その力で魔人を討伐する作戦を献策したという。
しかし、皇国の兵力に自信を持っていた皇帝の側近たちは魔剣の存在と効果を疑い、レギルの作戦を退けた。場合によっては世を乱す凶賊どもに頭を下げなければならないかもしれないという可能性も、魔剣を使うという策が疎まれた理由である。
大兵力を用いたザルヴァード討伐作戦の準備は着々と進められ、皇国中の兵力が集められていく。魔神との戦いを前に、兵士たちには恐怖が蔓延していた。
レギルはそこで行動を起こす。皇帝を暗殺するという大事件によって、討伐作戦の決行を遅滞させたのだ。大逆罪を負ったレギルは逃亡し、姿を消した。
十忌ディスノミア討伐指揮官「ヴァレン」
ザルヴァード討伐のために大兵力が必要とされている最中に、凶賊たる十忌ディスノミアを撃滅する作戦がインペリアルガードによって遂行されていた。挙国一致で魔神に当たるべき状況下で最精鋭たるインペリアルガードが別行動をしていたのは、逃亡した皇帝暗殺犯レギルが十忌に接触しているという情報があったためである。優先すべき事項が定まっていなかった辺りに、当時の政治的混乱が窺える。だが、ディスノミア討伐には、噂の魔剣が手に入るかもしれないという、ささやかな希望も込められていたのかもしれない。
十忌討伐の任に当たったのはレギルの親友であったヴァレンである。彼は自身が魂を吸う魔剣などという不確かなものに頼ることを反対したことで、友を追い込むことになったのではないかと苦悩していた。だが、彼は忠烈の騎士である。罪人となった親友を討つために、心を鬼にして十忌の拠点を潰し回った。そして、十忌の潜む拠点を探り当て、彼らを討滅することに成功した。しかし、そこにはレギルの姿も、件の魔剣も存在しなかった。
後にインペリアルガードの二代目の隊長に就任したヴァレンは、こう述懐している。本来であれば、我が友レギルこそがこの地位にあるべきだったのだと。
魔神を討ち果たした騎士「クレリア」
インペリアルガードの有力な若手騎士のひとりであったクレリアは、魔神ザルヴァード討伐の前段階として、威力偵察に赴いた。可能であれば、魔神を誘導し、人里から引き離すようにとも命じられていた彼女だが、驚くべきことに、いつの間にか魂を吸う魔剣を手に入れ、偵察と誘導が主目的であったにも関わらず、妹アゼリアと共に魔神ザルヴァードを 討ってしまったという。魔剣は魔神が体内に取り込んだ無数の魂を吸い出し、魔人の復活能力を阻害することができたのだ。
だが、姉妹の出した魔神討伐の報告書には不明な点が多く、彼女自身も歯切れの悪い曖昧な報告を行った。頭脳明晰で知られ、その後インペリアルガードの参謀格となる彼女らしからぬ不可解な言動である。彼女に同行した他の騎士たちも皆一様に曖昧な供述をしており、何かを隠していることは明白であった。しかし、真実の究明は棚上げにされる。おそらく、魔剣の入手に際して、皇国にとって都合の悪い事実があったのだろう。
レギルを探し求めた騎士「アゼリア」
クレリアの妹であるアゼリアは、レギルに対し特別な想いを抱いていたとされる。レギルが大逆事件を起こし、十忌に身を寄せた際、彼女はその追討部隊へと志願したが却下さた。彼女がレギルの逃亡を助けるのではないかと疑われたためだ。もし彼女が戦場で敵としてレギルと相対したとして、その命を奪えるとは当時誰も思わなかったのだ。
そのため、彼女は姉クレリアと共に魔神へ威力偵察部隊に配属され、結果的にザルヴァード討伐の英雄となった。だが、その顛末不明な点が多いことは前述の通りである。
事件後、救国の英雄であり、将来の安泰を約束されていたはずのアゼリアは、辺境調査という出世からかけ離れた任務に志願した。だが、周囲にそれを止める者はいなかったという。彼女が「誰か」を探し求めていたことは関係者一同が知っていたのである。
以上がザルヴァード災厄のあらましである。

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エルガイアと凰刃那原の間に交流ができてかなり経つ。徐々にだが、人の往来も増えてきた。凰刃那原出身者はみな礼儀正しく、ランドールでも好意的に受け入れられている。時が経つのは早いもので、双方の出身者が結婚し、その子が社会に進出してきているとも聞く。私の知り合いにも母が凰刃那原出身だという少女がいる。
さて、人と共に様々な文物がエルガイアへと伝えられてきた。特に私が気になったのは凰刃那原で古来楽しまれてきた人形劇や舞台劇の類だ。ジヨウルリやカブキと呼ばれるそうした伝統芸能の演目の多くは、神話や伝説史実が題材となっている。中でも人気が高いのが 『穢れし五忍」と呼ばれる史劇。
だこれは我々も知る忍者という特殊技能を持つた者たちの戦いを描いた物語だ。
我々の知る忍者と言えば、グランガイアの大戦期に現れたとされるオボロとカグラだがどちらも凰刃那原の伝説に残るほどの偉大な忍者であるらしいただかの地で忍者と言えば真っ先に名が上がるのは、前述の『穢れし五忍ーの主人公であるソウヤだという。
せっかくなのでこの物語について少し語る。
主な登場人物
刀渡の里の里長の子「ソウヤ」
五穢忍の首魁「レンジ」
乱の計画を練った「キショウ」
鎖鎌の使い手「ジンゲツ」
狂気の幻術使い「イブキ」
悪逆卑劣の「リュウゴ」
物語は刀渡(とわたり)の里において、後に五穢忍と呼ばれる忍者たちが反乱を起こしたところから始まる。
乱はキショウの描いた通りの地獄絵図を現実に顕現させた。当日、里の中でも特に実力の高い者たちが次々と任務から帰還する。到着の時間は少しずつずれており、これはキショウが最も気を使った仕込みであった。里に帰選した者から順にリュウゴの不意打ちを受けて倒される。一対一の戦い、相手の使う忍術も分かっている状況、純粋な戦闘能力で言えば最高峰の実力を持つリュウゴの奇襲を受けたのでは実力者といえど敗れ去るのは仕方のないことだろう。
その間に里には毒が撒かれた。忍者としての修行をある程度積んだ者であれば、毒物に対する耐性を持っているものだという。撒かれた毒はそれほど強いものではなく、だが、対処しなければ死に至る、絶妙な配合だった。もちろんこれは毒使いとして有名なキショウの仕業だ。彼は刀渡の里に住む者を一人残らず消し去る算段だった。
異変に気付いた忍者たちは元凶を探すため里中を駆け巡った。だが、彼らはジンゲツの手により全員が討ち取られる。物語では一人一人に忍者の存在意義を問い掛け、答えに失望して殺していく様子が描かれているが、それは五穢忍と呼ばれるようになってからの彼の癖で、この時には無音で次々と瞬殺していったと記録されている。皆殺しに遭った里の経緯がどうして後世に伝えられているかというと、虐殺の当事者、キショウが詳細を書き記していたためだ。
キショウの計画通りにいかなかったこともぁる。その特異点は二つ。里長の子であるイブキとソウヤの姉弟だ。弟のソウヤは里長の親友にして片腕とも言われる上忍によって里の外へと脱出させられた。上忍は脱出直前に傷を負って斃れている。ソウヤも時を同じくして死んだと思われていたが、無事に逃げおおせていた。
姉のイブキは幻術の使い過ぎで精神に異常を来していたと伝えられているのだが、乱の当日の行動は支離滅裂だ。里の異変に気付くや否や、周囲の者たちに斬りかかり始めたのだという。ジンゲツは彼女も殺そうとしていたのだが、その行動を見て反乱の加担者だと勘違いし、素通りしてしまった。後にキショウと首魁のレンジに認められ、イブキは一味の仲間入りをしている。
乱の首謀者レンジはそうした混乱の中を悠然と里長の屋敷へと入って行った。正面から、堂々と。やってきたレンジに里長は何事が起きているのかと尋ねるのだが、彼はさも当然のように自分が乱を起こしたのだと答える。
刀渡最強の二人の決闘が始まる。レンジの雷迅を里長は正確に捌いていった。一見レンジ優勢の戦いに見えたが、里長には必殺必中の奥義があった。つまりは里長は攻撃をかわし続け、一瞬の隙に奥義を放てば勝利するはずだった。だが、倒れ伏したのは里長だ。レンジと里長は以前に真剣勝負に近い立ち合いを経験しているその時に、レンジは片目を犠牲にして里長の奥義を見切っていた。
こうして、刀渡の里は壊滅した。一人生き延びたソウヤは伝説の忍者の下で修行を積み、穢れた魂を封印する巻物を授けられる。この間五年だ。この五年間、五穢忍は凰刃那原中でそれこそ悪鬼のごとき所業を繰り広げた。修行を終えたソウヤが彼らを探す手間は掛からなかった。五穢忍は隠れも忍びもせずに、派手に暴れ回っていたからだ。
物語の本編とも言うべきソウヤと五穢忍の戦いについては、是非とも演目を見て楽しんでほしいのでここでは書くのを控えよう。
なお、五穢忍の魂を封じた巻物はおとぎ話ではなく実在するらしい。現在でもソウヤの子孫が大切に守り抜いているという。

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若き騎士が召喚師たちと共にネグレスの魔城で激闘を繰り広げていた頃。フィルアーム西部においても激しい戦闘が行われていた。
フィルアーム城奪還の報を受けて帰還した生き残りのヴァイザーたちが有志を募り、セルタピア解放義勇軍を結成した。義勇軍はネグレスの一大軍勢の残るフィルアーム西部へ向けて行軍し、激突する。
ヴァイザーの生き残りはそう多くなく、義勇軍を構成する兵士たちのほとんどは武器を持っ手も覚束ない素人であった。そんな彼らが勝利を掴めたのは、6人の新世代の英雄たちの活躍に依るところが大きい。
鉱夫上がりの「バートル」
フィルアーム海軍の「フリオ」
パートナー飼育係の「リーヴァン」
魅惑の菓子職人「ジェローム」
歌と踊りが大好きな「ロビナ」
命を懸けて歌い抜いた「ルノ」
勝利の美酒、あるいは菓子に酔いしれる戦勝祝賀会の会場で彼らに今後の抱負を聞かせてもらったので紹介したい。
バートルは古巣の鉱山で働くつもりだと言っていたヴァイザーの後進を育成する仕事も大切だが、異界よりもたらされた新技術を広め、復興に必要な資源を供給することに意義を見出しているようだ。
フリオは当分海の上に戻れそうにない。経験豊富な軍人として、フィルアームの未来を担う人材を教育する仕事が待っている。自由を愛する海の男にとって、机の上の書類の海は大嵐よりも辛いに違いない。
リーヴァンは以前同様に動物たちの世話を続けていくという。実戦を経験したことで、一回りも二回りも成長した彼が育てる動物たちは、今後新たにヴァイザーとなる者たちにとって心強いパートナーとなるだろう。
ジェロームは新たな店を構える予定だ。騎士としてフィルアームの未来を支えてほしいという周囲の期待には申し訳なさそうに、しかし、強い意志を持って断りを入れていた。甘党たちは彼の決意を大いに喜んでいる。

ロピナとルノはヴァイザーとして騎士団に籍を残しながらも、歌と踊りで人々を慰問して回るという。いつか異界、ランドールやイクスタスでも公演を行いたいと意欲を見せている。そして、それも不可能ではないだろう。
ネグレスの侵攻により多くの命が奪われた。特に人々を守るため先頭に立って戦ったヴァイザーたちの犠牲はフィルアーム王国にとって非情な痛手だ。だが、セルタピアは再び立ち上がるだろう。彼らの心に絆という名の灯火が輝いている限り。

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神軍による侵攻は巨大軍事国家として知られるバリウラ帝国の栄光の歴史に終止符を打った。バリウラが禁忌の術を研究、実用化していたことが神々の怒りを買い、そもそもの大戦の引き金になったと信じる者は多い。バリウラ帝国最後の皇帝テオドロスは、バリウラ陥落を前にして異界へと逃れる術を画策していた。第一皇女セルヴィアには、異界に眠る力を手に入れ、再びバリウラのちに戻り神軍と対決するためだと説明していたようだが、皇帝の真意をうかがうことのできる資料は見つかっていない。このため、皇帝の行動には様々な解釈の余地が残されている。この計画は帝国上層部のすべてに知らされていたわけではなく、ごく一部を除いては皇子皇女ですらバリウラ防衛のためにその命を散らした。本稿においては皇帝の異界への逃亡と特に関わりの深かった第一皇女セルヴィア、第四皇女ミューゼ、第七皇女フェリーネについて記すこととする。
「鋼の意志を持つ皇女セルヴィア」
第一子であるセルヴィアが誕生した折にはさすがのテオドロスも喜びを隠せなかったといわれている。生まれながらに持っていた気品は周囲の人間をごく自然にかしずかせ、長ずるにつれて宮廷内で非常に大きな統率力を発揮するようになっていった。時には将軍として金城鉄壁を謳われた要害を陥落せしめ、時には宰相と共に役人の綱紀粛正を図った。また、それぞれが違う信条を持ち、衝突の絶えなかった弟たち妹たちの仲を取り持ち、協調を引き出すことで国事をつつがなく執り行わせた手腕からも、彼女の持つ能力の高さがうかがえる。バリウラ滅亡に際しては、一度異界に逃れてから力を手に入れ捲土重来を果たすという父テオドロスの策に協力し、偽情報を流すなどの裏工作によって第一皇子シリウスを計画に従わせた。なお、彼女は障害未婚を宣言していたが、これは陰謀渦巻く宮廷の権力争いに未来の我が子が巻き込まれるのを嫌ったためだとする説が支持されている。
「慈悲深き薄幸の皇女ミューゼ」
ミューゼは生まれながらに不治の病を患っていたとされているが、これは恐らく何者かによる呪いの類であったのだろう。権力を巡る奸智術策が蔓延っていた当時の宮廷の状況を鑑みれば、大いに考えられることである。日常生活を送る上で特段不便はなかったように伝えられているが、他の皇子皇女にように戦場で指揮を執るには虚弱に過ぎた。だが、彼女は自身が抱えていた病の苦しさを表には出さず、積極的に民と触れ合い、ささやかな幸せを共有することを喜んだという。こうした彼女の人柄は当然のように人々から愛され、苛烈な水面下での政争の続く宮廷内ですら悪意に晒されることなく平穏な日々を過ごすことができたと言われている。バリウラすべての民から愛されていたミューゼは、自身もまた祖国の風土や文化、帝国を支える市井の民を愛しており、バリウラに生を受けたことこそが、長く生きながらえることのできぬ身の最大の幸せだったと手記に残している。
「暴君と忠臣の二面を持つ皇女フェリーネ」
史書におけるフェリーネについての記録には空白の期間が散見される。恐らく表立って記録できないような活動に従事していたためだろう。彼女は自ら口にした意見は何があろうと曲げない頑迷な性格だったという。また、感情の起伏が非常に激しく、少しでも粗相のあった従者は愛用の鞭を容赦なく浴びせられたと言われている。しかし、父テオドロスは彼女のそうした苛烈な性格を愛し、他の皇子皇女よりも特段に贔屓していたという。歴史の裏側での暗躍という失敗の許されぬ重要な役回りが任されていたであろうことも、工程の彼女に向けた期待と信頼を感じさせる。なお、フェリーネは武術にも魔術にも長けていたが、まだ幼く未熟であった頃に自らが呼び寄せた魔獣により、片目を奪われるという事件を起こしている。命までも失いかけたその時に、颯爽と現われ魔獣を倒し救ってくれた姉セルヴィアを誰よりも敬愛しており、彼女のためならばどれほどの危険を前にしても決して引くことがなかったと伝えられている。

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アートリア史上最悪!?
西武の田舎町で起きた凶悪事件の真相とは
身も心もカラカラになりそうな荒野の一角に2発の銃声が鳴り響いた。行われているのは銃遣い同士の決闘。潤いを求めて?――否、お互いの正義を賭けてである。
数週間前、シェーン鉱山付近で発生した強盗団による襲撃事件。各紙面を盛大に賑わせたこの事件の裏側を、関係者への突撃取材により明らかにすることができた。今回は特別にページを割き、読者諸兄へ衝撃的な真実をお届けする。
まずはこの事件に深く関わりのあった人物を紹介しよう。
巨悪と戦い続けた保安官「ジルベルト」
鉱山を守護する一族の少年「カルロ」
神の教えを伝える修道女「テレサ」
そして全ての元凶を作り出したこのふたりを忘れてはならない。
人々を恐怖に陥れた女首領「ヴァネッサ」
冷酷無慈悲な強盗団の幹部「マリアーノ」
事件はヴァネッサ率いる強盗団が町へやって来たところから始まる。彼女は一挺の拳銃を手に、たった半日で町を制圧してしまった。その時の光景を、町の人々は「まるで神の鉄槌が下されたよう」だと表現している。ヴァネッサの持つ銃が遺物であることは後になって判明するが、人々の証言はその威力を的確に示しているといえよう。
限られた資源を分け合いながら穏やかに暮らしていたはずの人々は、強盗団の登場により恐怖のどん底へと突き落とされた。
多くの住民が抵抗を諦める中、独りになっても戦い続けた保安官は、努力の甲斐もあり、やがて犯人を捕縛することに成功する。彼は当時のことを振り返りながらこう語ってくれた。
「彼女の助けがなければできなかった事さ。
 彼女こそが本当のヒーローだ!」
強盗団は鉱山奥の遺跡に眠る遺物を求め、何度も鉱山を襲撃している。その際多くの仲間を失い、自身も人質になってしまった少年はどのような気持ちだったのだろう。
「信じられる?この世に正義はあったんだ!
 全部彼女が教えてくれたんだよ」
少年は生き生きとした表情で答えてくれた。
テレサは修道女でありながら、強盗団の一味でもあったという。しかし彼女はただ騙されていただけだと涙ながらに証言している。
「あの方の正義が私の眼を覚まし、
 正しき方向へと導いてくださったのです」
なお、このコメントに疑問を投げかけた本誌の挿絵画家は、この語病院へと送られることになった。
公判により、事件は強盗団の幹部構成員マリアーノの立案であることが判明した。
全てはヴァネッサのために。
彼の主張は一貫している。無期懲役の判決が下され、望みが消えた今の彼の心境はどうだろう。
「まさかあのじゃじゃ馬娘に
 本心を見透かされちまうとはな。
 俺はこれからもベイビィ一筋でいくぜ」
強大な力を持つ銃を掲げ、数多の人々を恐怖と混乱に陥れたヴァネッサだが、その最後は1対1の決闘による敗北であった。
しかし彼女は最後まで相手の名を口にしようとはせず、頑なにプライドを守っている。
取材の際、我々は彼女からある人物への伝言を頼まれた。彼女の了解を得たので、それをここに記す。
「アナタも愛を見つけなさい。
 そうすればアタシの正義が分かるはずよ」
もうお分かりの通り、彼らは皆一様に、ひとりの女性について語っている。
しかし誰もその名を教えてはくれなかった。
が、我々はそれがこの少女であると考えている。
荒野を旅する少女「シーナ」
当初、彼女は偶然現場に居合わせただけの一介の旅行者だと思われていた。保安官たちも口を揃えて無関係と証言しており、公的には目撃者のひとりとだけ記録されている。
しかし今回彼らに取材を行うことで、彼女がこの事件へ密接に関係していることが明らかとなった。
残念ながらシーナはすでに町を出立しており本人から直接話を聞くことは叶わなかった。立場も思想も異なる5人に影響を与えた処女の正体とは、一体何なのであろうか?
ヴァネッサの所持していた遺物が事件後紛失したことといい、この事件にはまだ謎が多く残されている。
事件は一旦解決したが、本誌は多忙な官憲に代わって引き続き独自に調査を行い、読者諸兄に真実と驚きを与えてゆくものである。
続報に期待されたし。

アートリアタイムス
フェデリコ・レオーネ
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第四から第十までの魔神討伐隊の隊長たち。彼らはイシュグリア調査の先遣隊として異界に旅立ち、故郷の土を踏むことなく無念の内に散って行った。
クリムゾンクラッド隊長「グリフ」
リベレイション隊長「アイリス」
デスカラミティア隊長「カフカ」
ゼノブリッツ隊長「リベラ」
ブレイブラスティング隊長「クランツ」
ジャスティンガー隊長「ミーファ」
英雄として死んでいった彼らは召喚師でありながら、現在は英霊として召喚されている。いずれも召喚術に頼らずとも古の英霊に匹敵するほどの強靭な戦士たちだが、彼らもまさか自分が召喚される側になるとは夢にも思っていなかっただろう。
現在召喚される彼らは戦士として自身の腕で戦うことになるが、生前の彼らはどのような英霊を召喚していたのだろうか。記録や元隊員の証言などを集め、彼らが頼りとしていた英霊たちを明らかにしたので紹介しよう。
第四魔神討伐隊隊長グリフ
彼は自身が軍人であったため、軍人たる英霊を好んで召喚した。中でも特に信頼していたのがアグニ帝国最後の元帥アグニであった。また、グランガイア調査の折にフェニックスを実際に目にした感動があったようで、元隊員の日記には彼がファルザーを召喚する様子が散見される。
第五魔神討伐隊隊長アイリス
彼女が召喚したのは最後の護神十二聖の面々だったと伝えられている。十二聖という組織ではなく筆頭ソディウス個人を信じ抜いたシグネスへの思い入れが特に強かったようだ。なお、任務の合間の休憩中にミズルスキングを召喚し、ひんやり感を楽しんでいるのを目撃したという証言もある。
第六魔神討伐隊隊長カフカ
魔術師の家系に生まれた彼女が召喚する英霊は、やはり魔導に長けた者が多かった。それに加えて、自身が調査を行ったバリウラ地域で活躍した英霊の召喚も目立つ。最も多く召喚していたのはレムリアだったと元隊員は言う。ちょっとした用事のためにスケルトンを召喚したという逸話も残っている。
第七魔神討伐隊隊長ロア
異界の科学技術の探求を進めていた彼らが好んで召喚していたのは以外にも王道とも言うべき英霊たちであった。ファルマ、ラガン、エイミなど、正面から敵に立ち向かった者たちだ。幼い頃に親しんだ物語の英霊たちを呼べることを無邪気に喜んでいたという。なお、ロドルマギアを貶すと怒ったらしい。
第八魔神討伐隊隊長リベラ
意外性という点では彼女が最も際立つ。グラビオンやヴァエルといった巨躯、そしてランザやドゥーレといった力自慢の英霊。そういう男性が好みなのかと尋ねられたことがあるが、どうやら恋愛対象に求めていることではなく、自分自身がそうありたいと願う形が大きくて強い存在だったらしい。
第九魔神討伐隊隊長クランツ
彼の召喚師としての嗅覚は抜群で、その地で果てた英霊たちを都度召喚している。普段はウィルやアイムといった騎士を好み、彼らとの連携によって数々の敵を打ち倒した。しかし、機械人形であるDUEL-GXを召喚しようとした際には、副官たちに全力で止められたらしい。
第十魔神討伐隊隊長ミーファ
最年少で隊長となり可愛がられていた彼が信頼していた英霊は、いずれも格好いい大人の男だった。アヴァン、ザルツ、ドルク、バルゲイオスの4人を召喚することが多く、彼が将来どんな大人になりたいと思っていたかが窺い知れる。意図せず召喚したリリムやラミアからとてもかわいがられたともいう。
以上がイシュグリア先遣隊の方々の召喚事情である。最初の召喚師一行の調査もしたいところだが、オーン様が自らの手で敵を粉砕するところ以外を見た者が当の御本人たちぐらいしかおらず、いきなり挫折している。

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ルーメラクス革命を紐解くに当たり、まず、私は1人の学者として、公正、中立な立場で歴史を記すことを誓いたい。
革命の推移と、たった1日の戦闘で終結した王位奪還戦争に至るまでの経緯は、様々な人物がそれぞれの立場で書き記している。あれは正義と正義の衝突であった。あの戦いに参加したヴァイザーたちが、善を成そうとしていたことは疑いようもない事実である。
故に、私は彼らの名誉を守りたい。
公平無私なる元宮宰「ジョアン」
人々に幕われた元騎士団長「ハロルド」
正義の心を燃やした元侯爵「クリストフ」
民の安寧を願った女王「ヴィクトリア」
正義を成そうと足掻いた青年「アディック」
最善を尽くそうと努力した才媛「ナタリィ」
女王ヴィクトリアは父王の崩御により齢15にして玉座に就いた。摂政が立てられ、お飾りの女王となったのだ。この隙をモルデンカンプの一部の貴族が好機ととらえ、領土を掠め取ろうと軍を発する。すると少女王はヴァイザーとして、騎士の大精霊を従え先陣に立ってこれを迎え撃った。大勝であった。しかも女王個人の武が際立ち、誰の目にも女王が敵を退けたことが明らかな形で決着した。それ以来、女王はお飾りではない実権を持つ専制君主として君臨するようになる。長い治世は控えめに言っても善政であった。ルーメラクスに泰平の世が訪れたのだ。
とはいえ、何も事件が起こらなかったわけではない。特に重要なのは、女王の夫君と2人の王子が暗殺された凶事だろう。実行犯は女王の命も狙ったが、女傑たる彼女は自力でこれを撃退している。この事件の意義は、上位の王位継承権保持者が失われた点にある。つまり、女王が退位した後は、傍系の誰かが王位を継がなければならず、後継争いが発生する可能性が極めて高かったのだ。女王自身も宮宰ジョアンもこれを強く懸念し、貴族たちとの調整を繰り返していた。
女王が平民の通える学校を作り、広く人材を登用できる道を作ろうとしたのも、その一環だろう。実際にナタリィという智者が発掘され、彼女は国民の立場から改革に有益な発信を行っていった。だが、それは既得権を持つ貴族たちにとって都合の悪いものばかりだった。ある貴族が、古い時代に制定され、ろくに適用されることもないまま忘れ去られていたような法律を拡大解釈し、こじつけに近い形でナタリィを叛逆罪に問うた。ほとんどの貴族はこれに賛同し、貴族会議でこの法の適用が決定される。女王はそれを否決しようとしたが、法は正式なものであったため、死刑を追放刑に減じることしかできなかった。
この件に関して大貴族であるクリストふは頑迷に反対を叫び続けた。何故なら、ナタリィは彼の幼馴染であり、身分違いでありながらも恋心を抱く相手だったからである。だが、彼の検討も空しく、ナタリィは辺境へと追放された。以来クリストフは彼女を王都に呼び戻すため、身分制度に関する改革を指向、いくつもの法案を通そうと努力した。しかし、いかに大貴族であっても、根回しがうまくいかなければ意を通すことは難しい。ナタリィの名誉回復は成らなかった。もっとも、当の本人は頻繁に王都に侵入し、その知恵を人々のために使っていたのだが。捕縛されたこともあるが、騎士団長は人格者として知られるハロルドである。見なかったことにして、王都からつまみ出されるだけで済んでいた。
前史はこのぐらいにしておき本題に入ろう。事の発端はモルデンカンプ公国の内政問題である。私腹を肥やす貴族の腐敗を正そうと、騎士団が立ち上がり、そして敗れた。この騎士団反乱事件が、隣国であるルーメラクス王国に大きな波紋を呼んだ。モルデンカンプの事件についてはモルデンカンプ騎士団興亡史に詳しいため、是非一読してほしい。
モルデンカンプほど腐敗していたわけではないが、ルーメラクスとて一枚岩ではない。貴族たちにはそれぞれの思惑があった。もし、高齢の女王が崩御すれば、国はどうなってしまうのか。騎士団長ハロルドは国民のみならず、配下の騎士たちまでもが平和に甘んじ、危機意識を失っていることに気付く。勿論、彼自身もまた知らず知らずのうちに女王の治世が永久に続くように思ってしまっていた。
宮宰ジョアンは1人悩み続けた。考えに考え抜いて出した結論は、名君ヴィクトリアがいなくなるのなら、その前に彼女の同意を得て王政を廃し、共和国を樹立する革命だった。女王の性格を熟知していた彼は、必ずや女王がこの理想を理解してくれるだろうと確信していた。あとは貴族たちをどうするかだ。やはりどう考えても武力を背景にする他ない。宮宰は騎士団長に大逆計画を打ち明ける。ハロルドは絶句したが、耳を傾けるうちにその理想が実現可能であり、かつ、敬愛する女王のためにもなると信じた。騎士団長の説得に応じない騎士もほぼいなかった。
かくして、貴族会議が開かれた際に、宮宰は議論を中断させ、演説を始めた。貴族たちの怒号が飛び交ったが、議事堂は騎士団に包囲されている。そして、女王はジョアンの語る革命の有用性を認めた。自主的に退位することを宣言したのである。もし、この女王の英断が無ければ、貴族たちは女王のためにと嘯いて、手勢を率いて戦いをはじめ、騎士団と貴族連合による内乱が起こっていただろう。そうなればモルデンカンプの二の舞である。そんなことはジョアンにもヴィクトリアにも分かり切ったことであったため、この無血革命の成就は妥当なものだったのである。
革命は成り、平等な市民となった市井の人々はというと、言葉を選ばずに言えば、何一つ理蟹していなかったと言っていいだろう。革命議会議長となったジョアンは、そんな市民たちのために繰り返し説明会を開き、民が自分たちで国の代表を決める民主制度の啓蒙に努めた。もしこの時に革命政府にナタリィの姿があれば、市民たちの理解はもう少し進んでいたかもしれない。しかし、ナタリィは革命が引き起こすかもしれない暴力を懸念し、革命自体に反対した経緯があるため、王都には戻っていなかった。
それでも市民たちは夢を抱いた。元女王を敬愛する者たちは、初代の首相としてヴィクトリアに立ってもらおうと考えていたし、身分差別が無くなったことを喜ぶ者たちは、ジョアンこそが首相に相応しいと考えていた。選挙によって議員になることを目指す者も現れ始める。旧貴族がこの状況をどのような目で見ていたかは推して知るべしである。
爵位を剥奪され市民にされた旧貴族たちの憤懣を抑えるため、ジョアンは彼らに第一回の選挙が行われるまでの間の地方議員という肩書を与えていた。また、王都では地域の顔役やまとめ役を仮の議員とし、革命議会を開催した。結論から言うとこの会議は大失敗に終わる。元平民たる議員たちは旧貴族の財産の没収を求めたり、遡及法によって旧貴族を罰しようとすることに躍起になった。旧貴族たる議員たちは呆れかえり、議会を侮辱して自領、もとい、自身の私有地に帰って行った。土地の没収はいずれ行わなければならぬことであったが、この段階で話し合うべきことでなかったのは間違いない。
かくして、首都の革命政府と地方の旧貴族たちとの関係は微妙なものとなる。ジョアンの手腕が無ければこの段階で内乱が起こっていても不思議はなかった。ハロルドが革命軍の将軍となり、市民による国民軍を編成し始めたことも貴族が暴走しなかった理由だろう。平和に浸りきっていたルーメラクス貴族は内乱を起こすことに及び腰だったのだ。だが、モルデンカンプ貴族は違う。隣国の未曾有の混乱に付け込まぬ手はないとばかりに、各々が勝手にその手を伸ばし始める。ある者は暴動が起きるよう間者に扇動をさせ、ある者はルーメラクス貴族と密約を取り付け、ある者は元平民の議員に近付いた。彼らが一致団結してルーメラクス侵略を企てていたなら、英明なジョアンがこともなげに対処したことだろう。だが、本来ならば悪手である秩序なき政略が、ジョアンの読みを狂わせた。
あるモルデンカンプ貴族は手下を通じてルー メラクスの悪漢に元女王の暗殺を依頼した。アディックという青年は、心根は善良なのだが、その不器用さ故に裏社会で生きることを余儀なくされた者である。彼は貴族たちが元女王を担ぎ上げれば内乱が起こるという言葉を信じ、正義のために汚れ役を引き受ける。女王という立場から解放され、悠々自適の生活を満喫していた女王に送られた刺客。女王は彼が革命政府ではない何者かに踊らされていることを見抜いたが、時すでに遅し、首都では暴動が内乱へと発展していた。
隣国の貴族の間諜が跋扈する革命広場では、市民が暴動を繰り返し、革命政府は死傷者を出さぬようそれを鎮圧することに苦心していた。だが、暴動にヴァイザーが混ざり始めると、それも難しくなってくる。戦闘が起きれば負傷者が出るのが道理である。ハロルドたちは隣国から送り込まれた傭兵のみを仕留めたが、市民の目にはそれが革命軍による市民への殺人としか映らなかった。血を見た市民が群集心理で恐慌を起こすことは避けられない。こうして、暴動は内乱へと発展した。
内乱が起きた時点で無血革命は失敗したと見ることもできる。女王は争いを止めるため、王政復古を宣言し、迅速に革命政府首脳を討つことに決めた。後に言う王位奪還戦である。女王の傍らにはアディックとナタリィの姿があった。
さて、これで革命の経緯は語り終えた。王位奪還戦争の詳細は別著で詳しく記しているので興味があれば参照していただきたい。

ルーメラクス学院 カミュロン・メーバッハ
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アリーナの控室に本の忘れ物があった。中を読んでみると、誰かの日記らしい。悪いとは思いつつも、誰のものかを特定して返してあげようと読み進めたところ、アリーナでの対戦記録と感想が害き連ねてあった。
アリーナ598戦目
対戦相手:最強を求めし魔神「シュスイ」
今日はイシュグリア出身の魔神シュスイと一戦交えることになってしまった。シミュレーターが再現した相手とはいえ、やはり緊張してしまう。武神と謳われるだけあって、開始早々から猛攻に次ぐ猛攻により為す術もなく瞬殺されてしまった。諸先輩方が苦戦していたのもうなずける。
彼は、かの第四魔神討伐隊隊長グリフ氏を圧倒した相手でもある。そして伝説の召喚師との戦いでは死力を尽くして戦い抜き、果てたという。リント氏にお茶を差し入れして、当時の様子を事細かに教えてもらうことができた。次の対戦に活かせそうだ。
しかし、リント氏が最後につぶやいた一言が気になる。彼はカル召喚老のことも気にかけていたようなのだが……カル召喚老が魔人とのハーフであることに関係があるのかもしれない。ややデリケートな問題のため、一召喚師が踏み込んでいい内容かどうか悩ましいころである。今はそっとしておこう。
アリーナ637戦目
対戦相手:モルデンカンプの騎士「ダフ二 」
あれは恐怖だった。椅麗な女性騎士が相手でシミュレーターも粋な計らいをするものだと思っていたのだが、そんな浮ついた気持ちは一瞬で吹き飛んだ。気が付いたら惨敗していた。
悔しいので、リント氏に差し入れ(今度はお茶にお菓子もつけた)して教えてもらったところ、彼女はセルタビアの英雄で、一人百鬼の異名を持つ猛将だったようだ。初見の相手に油断するとは自分の未熟さを痛感させられる。なんでも大軍に包囲されながら少ない手勢を率いて正面突破を行い、悪鬼のごとく敵兵を薙ぎ払ったそうだ。
次にまた対戦する機会があったら、無様な負けだけは避けたいが……思い出すと身震いがする。いやいや、戦う前からこんな調子でどうするんだ。次は勝つ。必ず勝つんだ。しっかりと対策を練っておかなければ。
リント氏が「モルデンカンプ騎士団興亡史」を薦めてくれたので、今晩あたり早速読んでみようと思う。
アリーナ772戦目
対戦相手:機械都市の新星「ジェレミー」
なんとイクスタスの防衛隊から派遣されているジェレミー准尉と腕試しをすることができた。彼はシミュレーターが召喚した英霊ではなく、生身の人間である。アリーナは実戦を想定した訓練ができる施設なので、こういうことも稀にあるようだ。
イクスタスで新たに開発されたという彼の装備は、「電空特装FDX41」という名前が付けられていた。かっこいい……ものすごくかっこいい。が、あそこまで自慢されると、素直に認めたくなくなるのが人というもの。
残念ながら試合は彼の圧勝だったのだが、試合後も調子に乗って曲芸飛行を繰り返すうちに燃料切れを起こしてしまい、落下の衝撃で装備に傷をつけていた。色々と残念な奴だ。
風の噂によると、イクスタス帰還後、技術主任から長時間の説教をくらったうえ、防衛隊本部を1ケ月間ひとりで掃除するようにと言い渡されてしまったらしい。彼との再戦はしばらく先になりそうだ……
アリーナ1014戦目
対戦相手:滅びの闘士「ガイ=ラーグ」
今日の対戦相手を見た瞬間、シミュレーターが誤作動を起こしたのかと思った。目の前に現れたのが、化け物だったからだ。が、誤作動でないことはすぐにわかった。
彼は意外にも紳士だった……のだが、戦ってみたら強さは見た目以上の化け物だった。自分の知る範囲では彼のような種族は聞いたこともない。またまた差し入れを持ってリント氏を尋ねてみたところ、彼はバダ・ファナという間き慣れない異界の英雄ということであった。
遥か昔にバダ・ファナでは優れた文明が繁栄していたそうだが、凄まじい威力の兵器で戦争をやり合い滅んでしまったらしい。彼はその最後の一人で、百年ほど前まで孤独に生き抜いていたのだそうだ。ずいぶんと長命な種族だなと思う。バダ・ファナに拠点を築こうとして現れたネグレスに討たれたという話だけれど、一体どれほどの年月、彼は一人きりでいたのだろう……
ハンフリー・グラッドマン。日付と対戦相手から日記の持ち主はすぐに分かった。だが、アリーナでの戦い方について、とても参考になる内容が沢山書かれていたため、つい魔が差して書き写してしまった。
この日記が後世に残るよう、私がしっかりと写本を保管してあげよう。悪く思わないでくれよ、ハンフリー君。
さて、素知らぬ顔で返しに行くとしよう。

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護神十二聖とはグランガイアにおいて、神々と人間との間を取り持つ役割を担う選ばれし者たちである。
カルナ・マスタ直属の大神皇神衛士メイリスや、ルシアス直属の神託の騎士団とは違い、特定の神ではなく、すべての神々と人々のためにその勇知を振るうのが役割である。
このため人々の目に触れる機会も多く、憧れの対象となる存在であり、その一員となるべく努力を重ねた者は数知れない。
歴代の護神十二聖は全員が英雄と呼ぶに相応しい存在であったが、大きな事件の影響もあり、単に護神十二聖と言った場合、最後の十二聖と呼ばれる面々を指すのが一般的だ。
筆頭「ソディウス」
炎舞の使い手「ラムナ」
孤高の戦士「シグネス」
生来の魔導師「ルーリー」
異界の砲士「グライブ」
探求の魔導師「ゼファー」
光の剣士「アリュート」
魔剣士「ファルオン」
双槍の騎士「レディオン」
故郷を背負う騎士「フィリア」
信仰の騎士「リーナ」
操影の槍使い「ルナリス」
筆頭ソディウスの神への叛逆から始まる仲間同士での戦い、そして壊滅までの流れによって毀誉褒貶の激しい彼らであったが、現在ではその真相が広く知られるところとなり、悲劇の英雄として評価が定まっている。
特にソディウスの名誉の回復は重要で、かつては彼が神に背かなければ神々と人間との戦いが起きなかったと考える者も多かった。実際には大戦は多くの陰謀の結果引き起こされたものであり、十二聖の乱はそのひとつに過ぎなかったのだが、人々の知ることのできた事件は件の悲劇だけであった。
そのため、長らく護神十二聖の乱とは何だったのか、研究の対象となってきた。研究資料としては、同時代においては、限られた情報の中での憶測と、一部の直接彼らを知る者による擁護論があるに留まる。大戦を経験し、エルガイアに逃れた人々は、彼らが元凶であると憎む者と、ソディウスこそが神に立ち向かった最初の英雄であると称える者の両者に二分され、多くの議論が交わされ、様々な研究書が著されたが、いずれも仮説に仮説を重ねたもので、真相からほど遠いものが多い。
ルシアスの門が開かれ、人々が再びグランガイアに足を踏み入れるようになると、召喚院による各種の調査が行われ、重要な資料が発見されることになる。事件の当事者の一人、騎士フィリアの個人的な日記である。
日記はまず、事件後に同時代人が創作したもの、すなわち偽書ではないかが疑われ、徹底的に調査が行われた。最終的に特殊なスフィアと召喚術の応用によって日記が本物であることが分かり、内容の精査によって持ち主の特定も行われた。
つまり、最後の十二聖の足跡を、フィリアの視点のみからとはいえ、詳細に知ることができるようになったのだ。それでも、当事者であったフィリアには見えていなかった事柄が多く、 研究は頭打ちとなった。
その状況を打破したのが、召喚院の開示したアクラス・Z・ミューゼルが遺した多くの資料である。アクラス召喚院の名の由来ともなったゼフアーが調べ上げた神々の間の陰謀は、初代召喚老たちが人間を神々の支配から解き放たねばならないと切実に思わせるものであった。
さて、堅い話はこのぐらいにして、フィリアの日記から知ることのできた十二聖の面々の普段の様子を少しだけ紹介していこう。
ソディウスがあまりうまくない冗談を頻繁に口にしていたことはよく知られているが、実は彼は余暇を利用して帳面にアイデアを書き記していたのだという。一生懸命に考え、捻りだした冗談であるが、それ故に直感的には分かりにくく、しかも会話の流れに即していない唐突な話となってしまう。これが、彼の冗談が困惑を招いた主な原因であろう。
アリュートは意外な趣味を持っていた。木彫りである。木片を拾ってきては小刀で削り、様々な動物の置物を作っていたという。フィリアの評は辛疎で、犬と馬の違いもわからない程度だったと書いている。しかし、一部の者には好評で、特にルーリーなどは気に入ったものを勝手に自分のものにして持ち去ってしまったりもしていたらしい。
ファルオンには何人か妹がいた。人付き合いが得意とは言えない彼の元に頻繁に届く手紙に、フィリアは当初首を傾げていた。ある日ファルオンは一通の手紙を廊下に落としてしまった。好奇心を抑えられずに中身を読んだフィリアだが、そこには妹たちによる心温まる日々の報告が綴られていた。どうやらファルオンはまめに返事を送っていたようだ。
ラムナがファルオンと恋人関係になるまでには軒余曲折あったようで、2人はルナリスはもちろんのこと、フィリアにまで相談に乗ってもらっていた。ファルオンと余暇の時間が合わない日のラムナは、日がな一日舞踊の訓練に励んでいたという。訓練とは言っても、彼女にとっては踊ることは楽しみでもあり、汗を流した後は良い顔をしていたそうだ。
シグネスは滅多に拠点に帰らず、たまに帰るとソディウスと2人きりで話しをした後、特に何かを言うこともなく、他の十二聖の面々を眺めていたそうだ。興味のあること以外を覚える気のないルーリーなどはシグネスを見るなり「誰?」と訊しんでいたという。フィリアも人付き合いが得意な方ではないため、ほとんど会話をしたことがなかったという。
レディオンの趣味は独特だ。河原や海辺で石を拾って来て自室に飾っていたという。彼の心の琴線に触れる形や色をした石を選んでいたようで、時々庭先で洗ったり磨いたりしている姿が目撃されている。アリュートがうっかり漏らした言葉から推測するに、石ひとつひとつに名前が付けられていた可能性があると日記には書かれている。
ルーリーにはいくつかお気に入りの時間の過ごし方があったらしい。ソディウスかルナリスの後を付いて回ってお喋りに夢中になることと、グライブの武具の手入れを黙って眺めていることが特に多かった。ファルオンへの悪戯もよくあることだったらしいが、短気なファルオンが彼女の悪ふざけには寛容だったのがフィリアには印象的だったようだ。
グライブは無口で黙々と手作業を行うのが好きだというイメージが人口に膾炙しているのだが、実際にその通りだったようである。自分の武器だけではなく他の十二聖の面々の武具の修繕や改良も請け負っていたようで、普段着の繕いまでこなしたらしい。おそらくそれは趣味と実益を兼ねた行為であり、気が付くと拠点の調度品まで作っていたそうだ。
リーナは聖堂での祈りに多くの時間を費やしていたが、詩集を読むという趣味も持ち合わせていた。神を賛美する詩が多かったようだが、恋の詩集といった俗っぼいものにもきちんと興味があったようで、それを見掛ける度に、フィリアは安堵感を覚えていたようだ。なお、リーナとフィリアは仲が良く、一緒に食事をしたという記述が多い。
ルナリスが十二聖の母親的存在と言われていたことは有名なことだ。掃除を怠りがちな一部の者たちの部屋に押し入り、勝手に片付けては文句を言われるという、母親と言われても仕方のない行動も実際にとっている。ファルオンがうっかり母さんと呼んでしまった事件があったようだが、誰も話題にしないという暗黙の了解があったようだ。
ゼファーの部屋には様々な分野の書物が乱雑に積み上げられていた。本人が言うには、どの山に何の本があるかは把握しており、最適化されているとのことだが、ただの言い訳だとフィリアは睨んでいる。なお、本が増えすぎ自室に収まりきらなくなった際には、倉庫の一部を図書室に改装してそこに仕舞うようソディウスからの指示があったようだ。
フィリアの趣味はもはや一目瞭然であろう。仲間たちの行動を観察しては逐一日記に書き記す。やや批判的に書いて見せてはいるが、仲間への愛情が、可愛らしい丸い文字から伝わってくる。自身の心情も赤裸々に記されているため、まさか後世に数多の学者が自分の日記を研究目的で隅から隅まで読みつくすことになるとは思ってもみなかったのだろう。

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召喚老からの依頼でネグレスの魔城から接収した様々な文献の調査を行った。その中に興味深いものを見つけたので紹介したい。
それは、セルタビアの古い神話である。セルタビアの人々に尋ねても、かつて悪神が討たれたという内容の短い詩文が残されているのみで、完全に忘れ去られた神話のようだ。
文献の解読を進めるうちに私は確信した。これは古の悪魔と呼ばれる力の起源を説明した神話であると。
忘れられた英雄「ゼラス」
その身を捨て神を討った竜「ヴォルハイン」
セルタビアの祖神「マナ」
祖神の分霊「ラクペル」と「リーネル」
神話によると、太古のセルタビアには人間の他に竜族、精霊、霊獣が我々人間と同じように文明というものを持って存在していたらしい。竜族は強靭な体躯と人より優れた知恵を持ち、精霊は優れた知覚と魔法の力を有していた。霊獣とは言葉を話す動物たちで、彼らは多種多様な存在として、それぞれが特異な能力を持っていたという。
勘のいい読者はもう気付いたかもしれない。セルタビアのヴァイザーがパートナーとしている不思議な動物たち、あれは太古の種族の末裔なのだと私は推測する。
というのも、祖神が悪神と化した後、各種族は神より与えられた力を失ったらしいのだ。彼らは言葉を失い、知能も当時に比べ低下し、文明というものを持たなくなった。
では何故人間だけが発展したのか。それは、元々人間が肉体的に弱い代わりに言葉と技術を備えた存在だったためだ。祖神が滅びた後に、彼らは自力で今の文明を作り上げた。
もうひとつ興味深い点がある。ゼラスとヴォルハインの関係である。まるでヴァイザーとパートナーではないだろうか。ヴァ―ザーという呼び方は四聖以降に定着したものだというので、ヴァイザーと呼ぶのは相応しくないかもしれないが、その原型は彼らなのだと私は確信している。
しかし、最も驚くべきことは、我々エルガイアの人間がつい最近成し遂げた神による支配からの脱却を、セルタビアの人々は神話の時代に成し遂げてしまっていたということだ。
神はいなくなり、神について語ることもなくなった。故にこの神話は忘れ去られてしまったのだろう。ただ、古の悪魔と呼ばれる力だけが残されていたのだ。
それにしてもネグレスはこの忘れられた神話の知識をどこから得たのだろうか。この知識が無ければ、ネグレスがセルタビアを狙うこともなかったのではないだろうか。
まだまだ異界には知られざる謎が多そうだ。

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異界セルタビアのフィルアーム王国において突如現れた異形の軍団の襲来から祖国を守るべく、死力を尽くして闘った者たちがいた。
それは、フィルアーム騎士団の誇り高きヴァイザー。
騎士団を率いる団長「アーガス」
貴族出身の女騎士「ローリ」
元傭兵の屈強な騎士「グラント」
彼らはどのような人物だったのだろうか。知られざる異界の騎士たちの来歴を紹介する。
フィルアーム騎士団史上最年少で団長に就任したという、アーガス。彼はセルタビアの伝説とされる四聖時代の賢王アリアトスの系譜であり、幼少の頃からヴァイザーとしての才覚を顕していたという。典型的な天才である彼は騎士団の入団試験も難なく突破し、騎士として輝かしい一歩を踏み出した。
アーガスと同時期に騎士団に入団したのが、貴族出身のローリ。親の反対を押し切って騎士となった彼女は、何の苦労もなく入団したアーガスのことが気に食わず、当初は彼をライバル視していたという。2人が初めて会った時、ローリを褒めたアーガスが無視された話は騎士団の間では有名らしい。
ローリは、努力を重ねてもなお実力はアーガスに劣ることに苦悩していたようだが、騎士として誠実な彼の姿を見るうちに徐々にアーガスを認めていったという。その後は自身得意分野を活かし、アーガスと共に騎士団の中核を担う存在となった。
2人の活躍もあり、騎士団の人気は急上昇。入団希望者が殺到し、新米騎士の育成が課題となりつつあった。
そんな頃、2人が祖国を離れた任務で出会ったのが、各国を流浪していた傭兵グラント。その圧倒的な実力はアーガスを感心させるほどで、彼の積極的な誘いを受けたグラントは騎士団に入団することとなった。
ローリは初対面でも馴れ馴れしいグラントのことを苦手に思っていたようだが、その豊富な経験と人当たりの良さは瞬く間に騎士たちからの人望を集め、後輩たちの指導も進んで引き受けたという。
やがて新たな騎士団の団長を任命する時期になると、ローリとグラントの2人は迷うことなく、アーガスを団長に推した。ヴァイザーとしての卓越した才能、祖国に対する忠誠心、決して驕ることのない謙虚さ、誠実に相手と向き合う真摯さ、その全てから、満場一致でアーガスは団長に任命されたのだった。
新たな団長の下、フィルアーム騎士団はその後も目覚ましい活躍を遂げる。「ヴァイザーの名のもとに。」彼らの姿は、若者たちに夢を与え続けた。

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アクラス召喚院遺失物管理室の棚にメモ書きの束が保管されている。書かれている内容は断片的で、日付も記載されていないため時系列は分からない。だが、持ち主は間違いなく第28魔神討伐隊ルーシッドフロウの隊長ナイゼルだろう。
管理室職員は彼に連絡をとったが、彼は単独で異界の探索に赴いており、受け取りはしばらく先になるとのことだった。そして、こうも言っていた。「ランドールに帰る時には、もうそのメモは必要ないかもしれない」と。
以下メモの内容である。(順番不明)
「ファーベルは6発撃っている」
「足跡を見る限りアートリアに生息する魔獣の仕業とは思えない」
「グロッサとケイナとミーレンは稲妻に撃たれたようだ」
「壁に刀傷。オリヴィアのものか?」
「シヤロンの傷は魔獣の爪牙にしては鋭利すぎる気がする」
「レストークの遺体が無いのは何故だ?」
「オーヴィル、ガムロック、パーシフル、アイネイオンは即死。同じ魔獣の爪によるものか」
「足跡が多すぎて識別が困難だ」
「バイゼンは自慢の盾を手放した状態で両断されていた」
「ファーベルが握っていたのはレストークの鎧の破片だ。掴んで引っ張ったのか?」
「シャロンは東側の壁に向かって作業をしていたようだ」
「シャロンの荷物から携帯式ゲート発生装置が失われている」
「シラーとテボラは酷い火傷を負っている」
「天井にひび。元からあるものか?」
「オリヴィアの手の平に刺さった彼女の剣はあまりにも不自然だ」
「ドルチェは大弩に覆いかぶさって死んでいた。ファーベルが倒れた後に使おうとしたところをやられたようだ」
「ランダンがシャロンに向かって倒れていたのは彼女を守るためだろうか」
「魔獣たちの血の一滴もないのは何故だ?」
「レストークが戦いの場で縦横無尽に移動した形跡がある。隊員を守るため奮戦したに違いない」
「ファーベルは至近距離から攻撃を受けた様子がある」
「転移先の異界を特定しなければ」
「キックスは背中を鋭利なもので切られた」
「レストークの足跡を識別できた。やはり現場にいたことは間違いない」
「まずい、血の跡が風化してきた」
「北の壁に突き刺さった大弩のボルト、これはおそらく三本目だ」
「最後までたっていたのは恐らくオリヴィア。その場にいられなかった自分が不甲斐ない。せめて共に死にたかった」
「床に穿たれた跡は氷柱のようなものが激突したと考えてよさそうだ」
「遺物らしきものはない」
「キーン、シルミア、マジェランは折り重なるようにして圧死していた。重量級の魔獣がいたことは間違いない」
「ファーベルはレストークを掴んで引き寄せた。攻撃をかわさせるためだろう」
「西6ブロック目にファーベルの血痕。ドルチェを庇った様子」
「くそっ、何故こんなことに」
「北側2ブロック目の天井にガムロックの矢が刺さっていた。仰角ということは飛べる魔獣もいたということか」
「場以前の盾の破片を7つ採取。あの盾を砕ける魔獣を図書館で調べる」
「どうして私はこの場にいられなかったのか!」
「頭を砕かれていたのは恐らく装備からミウリだろう。惨い」
「レストークはどこへ行った?生きているのか?通信機器は持っていないのか?」
「手の平の意味するとろ」
「間違いない、魔獣は突如現れた」
「どうしても分からない。魔獣も鱗の一枚も見つからないのは何故だ!」
「ファーベルの死に方が不自然?」
「キックス、ミウリ、ランダンの3人の足跡、連携攻撃を決めたはずだ」
ナイゼルは8年前に起こったアートリア調査団の壊滅事件の調査を行っている。親友のレストーク、弟ファーベル、幼馴染のオリヴィア、研究者のシャロン。特に彼らの死により精神的にまいっている様子だ。もちろん、他の隊員たちの死も、彼の心に重くのしかかっている。彼は自分を責めているに違いない。共に戦えなかったこと、共に死ねなかったことを悔いているのは傍目からも明らかだ。
ナイゼルは今もまだ諦めることなく調査を続けている。ルジーナ召喚老は彼に自由に調査を続ける権限を与えているが、果たして真相が究明される日は来るのだろうか。

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A.I.E.280 ○月×日 晴れ
今日から旅のはじまり!
ワクワクが止まらないよ~。
行きたいところもやりたいこともたっくさんあるから、どれにしようか迷っちゃう!
色々悩んでたら、まずは海のある異界を目指してみない?って言ってもらえたの。
さっすが私の召喚師!わかってるよね~♪
A.I.E.281 ○月×日 曇り
旅は順調!
だけど、なかなか理想の海って出会えないものなんだね~。
波が高すぎたり、危険な魔物がいたり……
でも私は絶対に諦めないよ!
一緒に海で遊ぶって約束したもん。
ねっ?私の召喚師♪
A.I.E.284 ○月×日 晴れ
すっごく理想的な海が見つかったよ!
セルタビアって異界にあったの!
エルガイアから結構離れてるから、みんなを連れて来るのはちょっと大変かな?
アーガスくんっていう親切な男の子のおかげで色々とこの世界のことを知ることができたんだけど……実は全然海に行けてません。
理由は、アイザックパパ!
あ、アーガスくんのお父さんのことだよ。
でね、アイザックパパってば、私の召喚師に毎日腕試しを挑んでくるの。私の召喚師もついそれを受けちやって。
だから海に行く暇が全然な~い!
こんな時、セリアがいてくれたらな~。
でも、そんな優しいところが私の召喚師のとっても素敵なところなんだけどね♪
A.I.E.285 ○月×日 雨
なんと、私たちの旅に仲間が増えました!
アイザツクパパなんだけどね。
私の召喚師の強さに惚れちゃったみたい。
気持ちはわかるよ、うん。すごくわかる。
って、思わず意気投合しちゃった♪
旅が楽しくなるなら、誰だって歓迎だよね!
ということで、今は3人で旅を続けてます♪
そういえば、セルタビアにはみんなが竜の山って呼んでる場所があって、そこに行くと温泉に入ることができたんだって。
早く言ってよ、もー!
温泉、入りたかったな~……
A.I.E.286 ○月×日 晴れ
昨日から岩がゴロゴロした異界に来てます。
海っぽいのはあるけど、うーん、あれは入らない方がいい気がする……
生き物もいないみたいだし、すぐに次の異界へ行こうとしたんだけど、急に岩がしゃべりかけてきてすごくびっくりした!
実は鉱石が意思を持ってたの!
これ、ノエルくんに話したら絶対喜ぶよね。
帰ったら早速話してあげよっと♪
そうそう、このしゃべる鉱石くんにはエルメライトって名前をつけてあげたんだ。
どう?かっこよくない?
私の召喚師ってセンスあるでしょ~♪
A.I.E.287 ○月×日 曇り時々雨
次の異界へはエルメライトも連れて行くことにしたよ。外の世界に興味があるんだって。
ワクワクは大事にしないとね!
私たちの冒険の旅はまだまだ続くよ。
エルガイアのみんな、お土産たくさん持って帰るから、楽しみに待っててね!
A.I.E.288 ○月×日 晴れ
あっつ~~~い!
アズカステリってすっごく暑い!
陽射しもきつくて、お肌が焼けちゃうよ~。
早く海に入りた~い!
だけどそうも言ってられなかったんだよね。
エルメライトのことを敵だと思った男の子といきなり戦うことになっちゃったんだ。
そこは私の召喚師の活躍で……!って言いたいところなんだけど、活躍したのはアイザックパパでした。おかげで無事誤解も解けて、男の子と仲良くなることができたよ。
そこでなんと、とっても魅力的な場所を教えてもらったんだ!
ふふっ、それはどんなところかと言うとね…
A.I.E.288 △月×日 暗れ
待ちに待ったこの日がやってきました!
海で遊ぶ日だよ~♪
マディクくん(男の子の名前だよ)が教えてくれたのは、彼が幼馴染の女の子とよく遊んでたっていう海のことだったんだ。
すっごくキレイなところで感動しちゃった!
でもここ、実はふたりだけの秘密の場所だったんだよね。
もちろん、そんな大事な場所を、いいの?って聞いたよ。そしたらマディクくん、私たちのこと、もう仲間だから、って……
私、嬉しくて泣きそうになっちゃった。
隣で私の召喚師が号泣してたのは、ここだけの秘密にしておくね。
ところでマディクくんって、どうやらその幼馴染の子が好きみたいなんだよね~。
本人は隠してるつもりなんだけど、私にはすぐわかっちゃった♪
ふふっ、恋っていいよねえ~♪
でもね、私の召喚師だけ全然そのことに気付かないの。
そういうところはどうして鈍感なんだろ?
なんだか複雑な気分だよ~。
エルガイアに戻ったら、カル君に話を間いてもらお……
A. I.E.289 ○月×日 曇り
アイザックパパとアズカステリでバイバイすることになっちゃった……
あ、もちろん前向きなやつね!
このまま旅を続けるよりも、ここに残ってマディクくんを一人前の戦士に育てたいんだって。きっとセルタビアに残してきたアーガスくんのことを思い出しちゃったんだね。
出会いがあれば、別れもあるのが旅だもん。
寂しがってちゃ旅は続けられないよ。
でも、またいつかどこかで会えるって信じてる!だからここは笑顔でバイバイするんだ。
……そうだ!明日、アイザツクパパにオーブをプレゼントしよう。
私たちの友情の証として、ね。
あのオーブは、大切な人との絆を繋いでくれ るものだから。
A.I.E.290 ○月×日 晴れ
そういえば、イクスタスって異界で何かあったみたい。ルジ君たちを手伝いに行こうと思ったんだけど、いいって言われちゃった。
私たちに自由な旅を続けさせるためだよね。
本当に優しいよねえ……エルガイアのみんなって。
でも、困った時は絶対に助けに行くからね!
だって、みんなは私の大切な仲間だもん!
A.I.E.290 △月×日 雨
大変な世界に来ちゃったよ。
バザムントっていう異界なんだけど、人と人が飛空艦に乗って戦争を続けてるんだ。それがもう何年も続いてるんだって……
私たちはすぐに反乱軍のリーダーであるヘルミーナさんに味方することにしたんだ。彼女の戦う理由が、私たちが戦ってきた理由と同じものだったから。
大丈夫、こんな悲しい戦いはすぐに終わる。
だって私の召喚師がいるもん!
A.I.E.290 △月○日 曇り
やっぱり私の召喚師はやってくれたよ!
ヘルミーナさんと一緒に、戦争を終結させちゃったの。さすがだよね♪
でも、手放しでは喜んでられないんだ……
エルメライトがケガをしちゃって、しばらく療養することになったの。
戦いに犠牲はつきものだってこと、わかってたつもりだけど、それでもやっぱり辛いよ。
こんな思いをしてる人が、世界中にまだまだたくさんいるんだよね。
だったら、減らさなきゃ!
私たちの力は、そのためにあるんだもん。
世界中から争いがなくなるまで、私は旅を続けるよ。もちろん私の召喚師も一緒にね!
A.I.E.291 ○月×日 晴れ
バザムントを出立する日が来たよ。
エルメライトのことは、ヘルミーナさんにお願いすることにしたの。
お礼は、ベスティをもう一度召喚して見せるだけでいいんだって。ベスティって、実はこの世界の英雄だったみたい。
ヘルミーナさん、戦ってる時はあんなに凛々しかったのに、ベスティの英霊を前にしたら目をキラキラさせちゃって、子どもみたいでなんだか可愛かったな~♪
最後に飛空艦でバザムントの空を周遊できたのもいい思い出!
A.I.E.292 ○月×日 曇り
アートリアで事件発生!
召喚院の子たちが大変なことになってるみたい。
すぐに私たちも向かうよ!
A.I.E.295 ○月×日 雨
ナイゼルくんの調査で、アートリアの事件のことが色々わかってきたよ。
私の召喚師は、あの事件は何かのキッカケに過ぎないって考えてるみたい。もしそれが本当だったら、これからきっと大変なことが起きるよ……それこそ、全ての異界が危機に陥っちゃうような。
今こそ私たちの出番だよね!
A. I.E.300 ○月×日 晴れ
あいつ、すごく遠い異界まで逃げてた。
まだ名前のない異界だから、私たちはそこをアヴルヘインって呼ぶことにしたよ。
でも、まさかあいつがこんな異界を先に見つけてたなんて……
ここは想いの強さが有利に働く特殊な場所。
あいつの抱える想いはとっても強いけど、それでも私たちがここまで戦えているのはみんなとの思い出があるおかげなんだ。
エルガイアのみんなとのことはもちろん、旅の途中で出会った人たちとの思い出が、今、私たちを支えてくれてる。
楽しかったこと、悲しかったこと、色んなものを分かち合いながら一緒に旅をしたこと。
その全部が、私たちにとってかけがえのない宝物なの!
だから私たちは負けないよ!
アイザックパパはきっとまたどこかで誰かを救ってるはず。エルメライトはもっと大きく成長してるよ。マディクくんも、大事なあの子のために戦ってる。そしてヘルミーナさんは、今日もバザムントの平和を守ってる。
みんな、それぞれの場所で頑張ってるんだから!
……決めたっ!
全部終わったら、みんなと海に行こう!
エルガイアのみんなと、それに、旅で出会ったあの人たちとも。
場所は……せっかくだから、セルタビアがいいかな?温泉もあるしね!
ふふっ、きっと楽しくなるよ♪
それまで一緒に頑張ろ、私の召喚師!

▼...▼

召喚院の建物がある場所から少し離れたところに、見晴らしの良い公園がある。そこに懐かしい顔ぶれが揃っていた。
20年前の伝説の召喚師と女神ティリスをよく知る者たちである。
「それでは、再会を祝しまして……乾杯!」
音頭を取るのは、リムという女性。アクラス召喚院の元通信士だ。結婚を機に退職し、現在は召喚師である夫を支えながら家事と子どもの世話に勤しんでいる。
これはそんな彼女が、憧れの先輩と女神がエルガイアに一時帰還したことを聞きつけ、コネをフルに使いまくって開いた集まりであった。
伝説の召喚師の隣を陣取るのはもちろん、幼馴染であり親友でもあるカルだ。
「疲れてないか?ちゃんと食ってるか?
 ほらコレ、お前の好きだったやつ。
 おかわりならいくらでもあるからな」
「カル君、なんだかお母さんみたいだね」
伝説の召喚師を挟んでカルの反対側に座るティリスは、可笑しそうにクスクス笑う。
再会を喜ぶ気持ちは伝説の召喚師も同じである。負けじと親友のグラスに酒を注いでは、逆に注ぎ返されるという微笑ましいやりとりを繰り返していた。そして
「今日はたっぷり語り明かすぞ!」
カルのそんな一言から、思い出話の花は咲きはじめた。
「そういえば私たちって、初対面の時は最悪だったわよね。喧嘩してばっかりで」
そう言ってティリスと笑い合うのは、セリアだ。きっとグランガイアでのことを思い出しているのだろう。
慣れ合いの言葉を交わすことはないけれど、彼女たちの間に確かな友情が築かれていることを、その笑顔は雄弁に物語っている。
「アンタの第一印象も最悪だったわ」
一同の注目をこそばゆく感じたのか、セリアは伝説の召喚師へと話題を振る。
するとルジーナは
「俺よりも先に神を倒しやがって……」
と、不服そうな口調でつぶやいた。
伝説の召喚師は、一介の召喚師でありながらセントラミア城で創造主マクスウェルを打ち破るという快挙を成し遂げている。当時から召喚院“最強”を自称してきた若きルジーナにとって、そのことは我慢のならない出来事だったのだ。
「またまた~、ルジ君ったら。
 私の召喚師にヤキモチ焼いちゃって♪」
「焼いてねぇ!あと、いい加減その呼び方やめろ。下に示しがつかねえだろ」
それ以降、ルジーナはむっつりと黙り込んでしまった。
「あんな風に言ってるが、内心じゃまんざらでもないみたいだぜ」
カルは親友にこっそり耳打ちすると、無邪気に微笑んだ。
カル、セリア、ルジーナ、そして伝説の召喚師と女神ティリス。彼らは数々の苦難を共に乗り越えてきた仲間である。
セリアはパルミナでの魔統神カルデスとの戦いで、ルジーナはミルヴァーナでの神界帝ゼヴァルアとの戦いで、伝説の召喚師との友情を本格的に育み始めた。
「お主ら、本当に大きくなったのぅ……」
20年前のあの頃のようにはしゃぐ4人のことを、眩しそうに眺めるグラデンス。今年92歳になる元召喚老の彼にとって、カルたちはいつまで経っても子どものままなのだ。
「ウォーロン、見とるか?
 召喚院はこれからもますます発展するぞ」
老人は人知れず空を仰いだ。
伝説の召喚師やティリスの仲間は、召喚師だけではない。
「私はまだ諦めていないわよ。今からでも
 どう?RSFに来ない?」
ランドール皇国首相に昇り詰めたパリスは、伝説の召喚師に誘いをかける。彼女は伝説の召喚師がアルダリアで真神アフラ・ディリスを倒してから、ずっと味方に引き入れようと考えていたのだ。もちろん今は、伝説の召喚師とティリスが崇高な目的のもとに旅を続けていることを理解し、応援している。
苦笑する伝説の召喚師に、彼女は「冗談よ」と一言告げると、グラスを傾けた。
宴は伝説の召喚師とティリスを中心に盛り上がり続けていた。暗い顔をしている者はどこにもいない。ひとりの男を除いては。
ティリスは、宴席から少し離れたところで皆を眺めているエリオールのそばに寄ると、明るく声を掛けた。
「奥さんは元気にしてる?」
「テスラか?……ああ、お陰様で元気だ」
エリオールはティリスへ妻がこの場に来ないことを詫びると、息子のテオドアを簡単に紹介する。
テオドアは初めて女神と対面し、緊張で表情を強張らせていた。
「この方が、父上の心を救ってくれた……」
「それと、あそこにいる召喚師もな」
グランガイアでの四堕神との戦いの中で、エリオールは自らの野望のために裏切りという過ちを犯した。しかし彼がこうして家庭を築き、今もランドールで活躍を続けていられるのは、伝説の召喚師とティリスの存在があったからに他ならない。
「ほらほらノア!せっかくなんだから
 おしゃべりしてきなよ」
「うわっ!ちょっと押すな、エリーゼ!」
エリーゼに背を押されてつんのめるように飛び出してきたノアは、伝説の召喚師が目の前にいることに気付くと、ややぶっきらぼうに挨拶の言葉を口にする。
ノアにとって目の前の召喚師は、ライバルであった。すぐに実力の差を認めることになったのだが、素直になるにはまだ少し時間がかかるらしい。そのことと、彼がエリーゼと共に召喚院を出たことに関係はないのだが。
そんな不器用なノアの様子を、エリーゼは横でニヤニヤしながら見ていた。
「ふたりとも、結婚したんだね!
 いつかそうなるって思ってたんだ♪」
ティリスの言葉にうんうんとうなずき合う一同。しかし伝説の召喚師だけは驚きで目を丸くしている。
「完璧でありながら、愛嬌も忘れない……
 それがあなたの人気の理由なんですね」
人懐こい笑みを浮かべながらも瞳の奥に鋭さを残したまま、ベルツは伝説の召喚師の肩ヘポンと手を置いた。
「あなたには注目してるんです。
 そう、イシュグリアから、ずっとね」
ここからしばらくベルツの独り語りが続く。
しかし皆、伝説の召喚師の英雄譚に心を躍らせながら耳を傾けていた。
セルグラードでの出会い以降、幾度も相見えることとなった闘魔武神シュスイとの戦い。
レームでは、闇魔仙神モーラの策略に踊らされることもあった。戦えば戦うほど強く進化する業滅雷鎧ベイオルグとは、同名の地で激しい戦いを繰り広げた。謎の男の妨害を受けながらもかつての神徒・腐堕狂神メロードを撃破し、伝説の召喚師はティリスを救うために前へ進み続ける。
「あの時は、魔神よりもオーン様の方が
 恐ろしいと感じたわ」
パリスはウルジでオーンが彼女と伝説の召喚師らの前に立ちはだかった時のことを思い出し、小さく身震いした。当時のオーンは召喚老にして数々の逸話を残す強者である。伝説の召喚師たちが苦戦を強いられたのは言うまでもない。
グラデンスは、オーンが隣でわずかに口角を上げて微笑むのを見逃さなかった。
その微笑の意味するところは、それぞれの想像に任される。しかしケイトだけは
「立派になってくれて嬉しいわね」
と、オーンを真似して微笑むのだった。
敵地でオーンに鍛え直された伝説の召喚師たちは、エガイア侵攻を企む魔轟樹神モルデリムをラクシュルトで討ち果たし、続くザームブルグでは永きに渡り刻を見続けてきた禍魔刻神アム=ユノスをも退ける。そしてファルナーガでは、カルの実父である煌竜覇神バリュオンと対決することになった。
「お前が親友で本当に良かった」
カルのつぶやきは人々のざわめきにかき消されてしまう。しかしカルの気持ちはちゃんと伝説の召喚師に届いていた。
「カル様をよろしくお願いします」
いつからそこにいたのか、赤い竜は伝説の召喚師に向かって静かに頭を下げる。そしてその場に酒瓶を置くと、鍾を返して去って行った。カルたちがリオメルグの来訪に気付くのは、もうしばらく後のことである。
ベルツの演説は、封印の八魔神最後の一柱である封魔導神カロンとの戦いを経て、大神皇カルナ・マスタとの激闘の部分に差し掛かっていた。そこからはセリアやルジーナも加わり、思い出話は益々盛り上がってゆく。
「はいはい、イシュグリアの話はそこまで。
 ティリス様たちの活躍はその後が
 またさらに凄いんだから」
レダの声がする方に、全員の視線が集まる。
異界から帰ってきたばかりなのだろう。彼女の後ろには、古めかしい機械人形が2体ふわふわと浮遊していた。
彼らはイクスタスの前身である異界ベクタスで作られた機械人形だ。レダが伝説の召喚師たちとそこを訪れた際に仲間となって以降、彼女の異界探索を手伝っているのだという。
イシュグリアを後にした召喚師たちは、新たな危機に直面することとなった。召喚のカが不安定になってしまったのだ。
しかし伝説の召喚師は、ベクタスをはじめとして、ヴィランシル、鳳刃那原と異界を巡り自らの力で道を切り開いてきた。
レダの語り口はその場にいる全員の心を大きく奮わせる。
「では、ロッカザルムとヴァルドロア、
 セントクリークの冒険奇譚は、私の方から
 語らせて頂きましょうか」
またもや登場したベルツは、伝説の召喚師とアベル機関との激闘の様子を、その組織に身を置いていた者としての想いをたっぷりと込めながら語り出した。
「ベルツの……あれ……迷惑じゃない?」
メルは伝説の召喚師にそっと尋ねる。
伝説の召喚師が首を横に振ると、彼女はわずかに微笑んでみせた。
「そう……あなたがそれでいいなら……
 私も、それでいい……」
伝説の召喚師とティリスは思わず胸を熱くする。ふたりの願った通り、造られた存在である彼女は、ちゃんと自分の意思で前に進んでいたのだ。
「さて。そろそろ君たちふたりの旅の話を
 聞かせてくれるかな。新しい研究のヒント
 をもらわなくちゃ」
「そういうことなら、お茶を飲みながら
 ゆっくり聞こうじゃないか。
 さあ、図書館へ行こう」
「リント、悪いけどウチの研究室が先だよ」
「いやいやノエル、ここは図書館で――」
伝説の召喚師とティリスのもたらす情報から多くのものを得ているノエルとリントにとって、ふたりと過ごす時間は何を置いても優先すべき事項である。普段は見た目以上に大人な彼らも、今だけは己のわがままを押し通そうと必死だ。
そこでセラが立ち上がった。
「みなさん、この方たちの時間を頂きたい
 場合は、私を通してください」
セラの眼鏡がキラリと光る。
彼女はわざと格好をつけて片目をつぶると
「おふたりのサポートはお任せを。
 それが私の仕事ですから」
誇らしげにそう言うのだった。
「そうそう、この景色が見たかったんです~
 みんなが先輩とティリス様を囲んで、
 先輩たちも幸せそうで…
 はあ、私も幸せですう~」
リムは夢のような心地に酔いしれていた。
「ほら、あの人がいつもママの話してる
 先輩と女神様よ。素敵でしょ~?」
「うん!」
彼女の隣に座る活発そうな子どもは、さっきから目をキラキラさせている。
リムは我が子に敬愛する先輩と同じ名前をつけた。もうすぐ生まれてくる女の子には、女神から名前を拝借しようと考えている。
「どこにいても、俺たちは繋がってる。
 次もまたこうやつて皆で集まろう。
 絶対に!」
伝説の召喚師はカルの言葉に力強くうなずくと、杯を掲げて応えた。すると皆もそれに続けとばかりにグラスを上げはじめる。
エルガイアに訪れたひとときの平穏。伝説の召喚師とティリスを中心にした伸間の輪は、まだまだ広がり続ける。この先も、ずっと。
「みんなみんな、大好きだよっ!」
ティリスが皆の気持ちを代弁する。
そして伝説の召喚師も口を開き――……
笑顔の花が咲き誇る中、祝杯の音は高らかに鳴り響いた。

▼...▼

我ら召喚院の精鋭はネグレス七魔将が四鬼、すなわち以下の四組の撃破に成功した。
羅殲鎧「ザド」と狂科学者グスタフ
沙蛇史「ヒルダ」と煉氷姫「ルネ」
奇術師「メルフェル」
爆炎獅「バラガン」
この快挙を祝うと共に、続く戦いに気を引き締め、敵の研究にまい進していきたい。彼を知り己を知れば百戦危うからずだ。
異界バダ・ファナに遺棄されたネグレスの旧拠点の探索も順調に進んでいる。
調査の過程でネグレスの兵が書いたと思われる文書が数点発見された。考えてみれば当然であるのだが、彼らも生きてものを考えている以上、こうした私的な文書が存在する。しかし、我々は驚きを隠せなかった。
単なる邪悪な存在としか認識していなかった敵にも、さまざまな思惑があったと知れたことは今後の戦いに利する可能性がある。
「下級指揮官の手記」(翻訳済)
俺にはわかる。俺の故郷にもよく機械があったからこそ、あいつの異常さはよく解る。自律制御に自己進化機能なんざ神への冒涜にもほどがあるってもんだ。おっと、今の俺の神はネグ・オルクス様だった。にしても、あのザドを作り上げたグスタフって奴は何者なんだ?機械が自分で自分を修理して、しかも更に強くなるなんて、もしかすると俺は伝説が生まれるところを見てるのかもしれねえ。故郷をザドが滅茶苦茶にぶっ壊した時はこの世の終わりかと思ったが、不幸中の幸い、ネグレスの一員として取り立ててもらえた。ネグ・オルクス様万歳、だな。
「蛇剣士の殴り書き」(翻訳済)(意訳)
俺たちの戦士の掟。上官に絶対服従、敵に情け無用。上意下達の鉄の掟。近頃緩みかけている。ヒルダの姉御が身内に甘い顔見せるのが原因。厳しく冷酷に、部下を駒として扱ってる風を装ってはいる。ろくでもない親分にこき使われてきた俺たちにはわかる。姉御は俺たちに優しい。子分たちにおいしいメシを食わせてやろうなんて親分は俺たちの歴史にない。ルネの姉御はもっと甘い。俺たちとは種族が違う。なのにあり得ないことが起こっていた。勘違いして懸想する連中が出てきた。これは由々しき事態。俺たちは狂った刃。ただ殺戮を楽しむべき一族。このままいけば骨抜きにされる。まずい。
「団長の日記」(翻訳済)(意訳不能)
本日もメルフェル様の素晴らしい演目を間近で堪能させていただく栄誉に預かり恐悦至極の汗顔の至りの至れり尽くせり、隣は不在。目玉が飛び出て果実の下に。メルフェル様のなさることはまさに奇術界の最先端にして前衛怒涛の感涙咽び泣きの雨ざあざあ。我らも身を文字通り粉にしてその技盗ませていただいておりますれば、日々研鑚喧の嘩日和の終日満員御礼ご注意ください踊り子さんには手を触れないでください。強一番の傑作と思われるかもしれないことについてひとつ書くのであればやはり団員を使った提灯爆弾鈴なり披露のメルフェル様のかんばせの輝かしきこと真珠のごとし。明日もころころ転がる。
「獣人兵の手稿」(翻訳済)
ネグ・オルクス様万歳、みんなそう言うけれど、俺たち獣人の多くは、ただの掛け声だと思ってる。俺たちの対象はバラガン様だ。この前の大森林異世界遠征では森を燃やせばすぐ片が付くのに対象は俺たちの獣勘を信じて正面突破を選んでくれた。だからこそあそこの連中も対象の懐の深さに感服して付いてきた。対象のすごい所は雑に武器振り回してるだけに見えて、相手の弱い所に確実に叩き込むことだと思う。あれは生まれ持っての嗅覚だと俺は思うね。野生の勘、俺たち獣人には備わってるものだけど、対象のあれは獣離れしてるとしか言いようがねえ。俺たちは一生あの方に付いて行くと決めてるんだ。
このように、ネグレス軍という塊で見た場合は冷酷無比な暴虐装置でも、個々の兵士に視点を当てれば意外と話の通じそうな者もいることが分かる。狂気に侵された奇遊軍や、そもそも意志などないであろう機鎧軍や闇屍軍は無理にしても、ほかの軍団は状況によっては投降を呼びかける余地があるかもしれない。
また、様々な異界から寄せ集められた兵士がネグレス軍の中核を担っていることも、もしかすると付け入る隙となるかもしれない。

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